2015-01-01から1年間の記事一覧
この5時間17分という「大作」(という表現は実は適当ではないが)が、神戸、東京とも連日満員だという。 名の知れた俳優ではなく、演技経験に乏しいワークショップ受講者を起用するというこの監督の手法が、観客のリアリティに訴えかけているのかもしれない…
大女優が、自らの出世作となった舞台『マローヤの蛇』リメイクへの出演をオファーされる。かつて演じた若いインターン役ではなく、その相手役の中年社長の役だ。彼女にとって、それは若い頃の自分との対立、葛藤を強いられる、虚実入り乱れた残酷な舞台とな…
アトミックサンシャインー河馬と人間アーティスト: 太陽肛門スパパーン,花咲政之輔,村山同志,泉邦宏出版社/メーカー: いぬん堂発売日: 2015/08/19メディア: CDこの商品を含むブログ (1件) を見るついに出た太陽肛門スパパーンのニューアルバムに、コメントを…
これは、マンガ家を夢見る高校生二人が、「友情・努力・勝利」(『少年ジャンプ』のコンセプト)というイデオロギーの動員に駆り立てられ必死に奔走するものの、最後は「敗北」していくという物語である。 現在「マンガ家」が、ネオリベ(新自由主義)下にあ…
ハンドルを握るロバート・デ・ニーロが、バックミラー越しに後部座席のアン・ハサウェイを見つめる。『タクシー・ドライバー』へのオマージュだと感じさせる、ほぼそのことだけが印象に残った。 『タクシ・ドライバー』の「トラヴィス」(デ・ニーロ)は、大…
物騒なタイトルだが、三島のことだ。 三島由紀夫は、民主主義に暗殺はつきものだと考えていた。人間は皆平等であり、お互いに一対一で顔を突き合わせる。その時、一つの政治的意見が、一つの政治的意見を殺す。それが暗殺だ、と。 だから、政治というものは…
思想としてのファシズム作者: 千坂 恭二出版社/メーカー: 彩流社発売日: 2015/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 戦後が忌避してきた、軍や戦争、死への思考をとり戻そうとする本書は、安保法案反対を、「戦争反対」のロジックと言葉…
現在、映画に現れる幽霊は、いったいどのような存在なのか。 言うまでもないが、映画はずっと幽霊を映し出してきた。画面に現れる人物たちは、実在しないが目に見える存在であり、生きてはいないが死んでいるともいえない、光によって構成された人物の影、す…
この作品のテーマは、ジャーナリズムでもカメラ=見ることをめぐる欲望でもない。 冒頭、闇夜に無断で金網を破り外している男がいる。屑鉄業者に売りつけるのだ。だが男は、業者の言いなりの額で取引しなければならない。いつまでも、こんなにみじめなままで…
自民党の武藤貴也議員が、安保法案に反対する学生集団SEALDsについて、「だって戦争に行きたくないじゃん」という「利己的個人主義」だと批判して物議を醸した。そうした風潮が「戦後教育」によって「蔓延した」と言うのである。その後も発言を撤回せず、自…
外山恒一の「野間易通 徹底批判」を読んだ。http://www.warewaredan.com/noma.html むろん、両者の論争そのものに対して何か言えるわけではない。その資格もない。ただ、外山論文の第二章、「サブカル」についての歴史的な考察は、自分の考えていることに大…
人と対面していて、時折、向こうにはこちらが、アニメやゲームのキャラクターのように映っているのではないかと感じることがある。リアリティの感覚の差異、というべきなのか、何か決定的に「線」をまたいでしまった/またがれてしまった、という感触がある…
津村喬は、マラヤ人留学生の言葉に、「非常に胸をつかれる思いがしたことがある」と言う(「毛沢東の思想方法―日常性と革命」1970年)。 彼は、日本人はみなアンポフンサイをいいますね。でも信用できない、と彼は言った。え、と私はききかえした。新左翼か…
ホモサケル。骨と皮だけになった老人が、老女にされるがままに体を洗われている。そこに意志はない。耳も目もほとんど機能を喪失しているようだ。息子のアディに耳元で「歌える?」と言われ歌いだしたときだけ、かろうじて表情がよみがえる。その歌は、楽し…
かつて保田与重郎のいった「文明開化の論理の終焉」を、現在最も尖鋭的なかたちで実践しようとしているのは、ISではあるまいか。 保田は「文明開化の論理の終焉について」(1939年1月「コギト」)において、近代日本を欧米の植民地と見なし、明治期以降こ…
イ・チャンドンが、企画段階からほれ込んでプロデューサーを買って出ただけあって、繊細できめ細かい作品だ。だが、今作は、作中の少女ドヒ(キム・セロン)や女性警官ヨンナム(ペ・ドゥナ)がそうであったように、心無い誤解にまみれている。 ヨンナムとド…
昨年のカンヌ審査員特別賞は、ゴダールとこのドランだった。受賞の際ゴダールはこうコメントした。「カンヌは、若い映画を撮る老いた監督と、古い映画を撮る若い監督をいっしょくたにしたんだ。ドランは映画の形式も古い」。 もちろん80歳を超えて、あの野心…
すると、ラストシーンも意味深長になる。6年後、ドンシクは、ホンメとの約束の地九老にやってきていた。そして、子供にラーメンを食べさせる女性に目を奪われる。 後ろ姿の女性は「ホンメ」で、ドンシクと目が合う子供は、あのとき不安と恐怖にかられて、互…
あの『殺人の追憶』の脚本、シム・ソンボが初監督、ポン・ジュノが共同脚本と製作に回っている。ポン・ジュノ組らしく、韓国社会の暗部をえぐり取るような作品だ。そうした視点抜きに見るならば、本作はハリウッドまがいのパニック映画にしか見えないだろう…
子午線 vol.3―原理・形態・批評出版社/メーカー: 子午線 原理・形態・批評発売日: 2015/05メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 「大阪都構想、是か非か」をめぐる住民投票が終わった。特徴的だったのは、それが勝者も敗者もともに「民主主義…
ルマータが、他の観察者(地球人)と決別するという作品の展開は、また、ロシアのみならず日本の1930年代をも想起させてやまない。当時の日本文学を席巻した「芸術と実行」や「政治と文学」といった問題である。 平野謙は、中野重治と「政治と文学」論争を交…
前作『フルスタリョフ、車を!』で、ゲルマンは、スターリンが自らの排せつ物に塗れて死んでゆく姿を描いた。これほどまでに、スターリンの死を惨めに描いた作品もないだろう。 スターリンの死を、まさにこれこそ「神の死」だとばかりに、即物=汚物的に描い…
このとてつもない怪物的な映像を、いったいどのような言葉で捉えればいいのか。何度見ても、途方に暮れてしまう。 ゲルマンは国内外で「反ソ」の作家と目されてきた。確かに、長編第一作『七番目の道連れ』(1967)で、早くも達成二年後に裏切られた革命を描…
繰り返せば、その時「政治と文学」の二項を媒介したのが、「人民戦線=青春」だった。ここにおいては、中野重治が転向して私小説を書くことも、小林秀雄が「私小説論」において、私小説をマルクス主義のタームで捉えることも、すべて「同心円」の中で矛盾な…
江藤淳と大江健三郎: 戦後日本の政治と文学 (単行本)作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2015/02/25メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る 上記の書評が、「週刊読書人」4月24日号に掲載されています。 以下、本書の内容とは…
「自分こそ被害者」という「被害者メンタリティー」が蔓延している。コミュニケ―ション社会においては、誰もが明確な「位置」を取り得ない。そこでは、人は常に「買い手」に立とうとする欲動に突き動かされている。「被害者」の位置に立つことは、いわば常に…
現在、ポジティヴであること、行動的、意志的であることを、否定的に捉える人は少ないだろう。それは、時代の空気として、そうあらねばならないようなイデオロギーとして機能しているとすら言える。ならば、このイデオロギーが生まれたのはいつなのか。 少な…
ナチス・ドイツの暗号=エニグマを解読した、イギリスの数学者アラン・チューリングの実話に基づく物語。「イミテーションゲーム」とは、エニグマを解読したことをドイツに悟られないようにするために、暗号を解読した瞬間から、戦争が相手をかく乱するゲー…
ロンドン市ケニントン地区の民生係であるジョン・メイは、孤独死した人々を弔うのが仕事だ。故人の遺品や写真を手ががりに、その人生を思い浮かべては弔辞をしたため、ふさわしいBGMを用意して宗教に沿った葬儀を執り行う。遺族や知人を訪ねて訃報を届け…
浅田彰、中沢新一、東浩紀の鼎談「現代思想の使命」(『新潮』4月号)を面白く読んだ。 マルクス主義や毛沢東主義が「知識人の阿片」(レイモン・アロン)として退けられたうえで、今こそドストエフスキーだ(東)、いやニーチェ(的な「末人」)だ(浅田)…