2010-01-01から1年間の記事一覧

クリスマス・ストーリー(アルノー・デプレシャン)

映画館を出てきた観客が、抑えていたものを放つかのように口々にいう。タイトルが「クリスマス・ストーリー」で家族もの、という当初の期待からだろう、「もっと感動的な「ストーリー」なのかと思った」。だが、しばらく批評を述べあったあと、どうやら結論…

スプリング・フィーバー(ロウ・イエ)

必見。 中国で五年間撮影禁止処分を受けているこの監督が、ゲリラ的に、撮影家庭用のデジタルビデオで撮った作品だという。冒頭から酔いそうなほど手ブレの激しい画面が続くが、それも落ち着きを見せると、二人の男が連れションをしている。最中に笑いながら…

2010年度 近畿大学文芸学部 日本文学専攻講演会

近畿大学で以下のような講演会があります。 第一部 講演 (学生との質疑応答を含む) いま小説を書くということ 朝吹真理子第二部 シンポジウム (西田耕三教授退職記念) 古典文学のアクチュアリティ 西田耕三+朝吹真理子+佐藤秀明+中島一夫+八角聡仁 12月1…

ソフィアの夜明け(カメン・カレフ)

見事な長編第一作だ。 あまりスクリーンではお目にかかれない、ブルガリアの光景が見られるというだけでも魅力的だ。 監督の友人で、国立美術学院にて木工を学んだアーティスト、フリスト・フリストフがモデル。そして本人自ら主人公「イツォ」を演じる。イ…

義兄弟(チャン・フン)

ソン・ガンホの存在感が見たくて見に行った。 シナリオ上の細かい部分でいろいろと疑問は湧いたものの、銃撃戦あり、カーチェイスあり、アクションあり、笑いありとラストまで飽きさせずに一気に見せる。完全にエンタメなのだが、やはり南北問題、ベトナム問…

一瞬の夢/プラットホーム(ジャ・ジャンクー)

見逃していたジャ・ジャンクーの初期二作品を見ることができた。 両作とも、ジャ・ジャンクー自身の出身地、山西省は汾陽(フェンヤン)が舞台である。また、文革後の改革解放政策の波が、この内陸部の地方都市にも押し寄せるなか、若者がどう変わっていくか…

悪人(李相日)、告白(中島哲也)

[rakuten:book:14019691:detail] 「映画芸術」の今月号に、『悪人』と『告白』のレビュー、「『悪人』『告白』を観る/読む 「悪」の表象を意味するもの」が掲載されています。

ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡(ルノー・バレ&フローラン・ドラデュライ)

あるインタビューで、この作品の被写体であるバンド「スタッフ・ベンダ・ビリリ」のリーダーの「リッキー」は、「ポリオで下半身不随になってしまった自らの身体の障害をどう思うか?」という問いにこう答えている。「手足は関係ない。俺は頭で考えて生きて…

何も変えてはならない(ペドロ・コスタ)

こういうことを書くと、きっと映画を「愛する」映画関係者や批評家、シネフィルなどから叱られるのだろうが、『骨』以降、ペドロ・コスタの強度はどんどん落ちているのではないか。 もちろん、それを、「路地」(『骨』、1997年)から「路地の解体」(『ヴァ…

武井昭夫さんを悼む

九月二日に、畏敬する武井昭夫さんが亡くなった。 私などは、そのブレない(「ブレない」という言葉は、武井さんのような方にこそふさわしいのではないか)活動家としての人生について云々する資格は持ち合わせていない。 ただただ一読者として、信頼できる…

ぼくのエリ 200歳の少女(トーマス・アルフレッドソン)

200年生き延びた「近代」の寓話 冬の夜、きみはひっそりと隣りの部屋に引っ越してきた。 荷物もほとんどなく。 部屋に入るや、お父さん?が窓をポスターやダンボールで覆ってしまった。 何やら秘密めいていた。 アパートメントの中庭で、はじめてきみに会…

瞳の奥の秘密(ファン・ホセ・カンパネラ)

いつもは、あまり、おすぎと映画の感想が合わないのだが、この作品については同じ意見だ。 「今、見なければ、一生後悔する秀作」。 確かに、この作品には、ストレートな形容がよく似合う。たとえば、「久し振りに大人の映画を見た気分だ」とか、「登場人物…

現代人は救われ得るか 平成の思想と文芸(福田和也)

現代人は救われ得るか―平成の思想と文芸作者: 福田和也出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/06メディア: 単行本 クリック: 28回この商品を含むブログ (6件) を見る 「週刊読書人」8月27日号に、上記文芸評論集の書評「鴎外の憂鬱」が掲載されています。

キャタピラー(若松孝二)

戦争を描くとはどういうことなのか。いや、もっとはっきりいえば、「反戦映画」とは何か、考えさせられた。 第二次大戦中、中国戦線に出征した「黒川久蔵」(大西信満)は、傷痍軍人として帰還する。だが、その四肢は根元から切断され、顔の右半分はケロイド…

インセプション(クリストファー・ノーラン) その2

愛し合っていた妻という他者に関する現実の記憶を、それが禁じ手であるにもかかわらず、自らの夢に再現してしまうコブにとって(『惑星ソラリス』を想起させる)、もはや夢の外部は存在しない。「その1」で述べた意味において、ラストシーンは、コブ自身が…

インセプション(クリストファー・ノーラン) その1

一分の隙もなく構築された建築物といった印象だ。 前作『ダークナイト』で示された、神(超越性)なき「悪」の空間を、本作では、縮減する現実を一気に包摂しにかかる虚構(夢=潜在意識)の空間としてさらに展開、二時間半の覚めることのない「夢」へと観客…

悪と仮面のルール(中村文則)

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)作者: 中村文則出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/06/30メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 41回この商品を含むブログ (19件) を見る [rakuten:book:13834876:detail] すっかりご無沙汰してしまい、ログインの仕方…

ザ・コーヴ(ルイ・シホヨス)

これは、ドキュメンタリーではない。 すでにこの映画については、さまざまな事実やデータの誤り、意図的で過剰な演出、露骨なプロパガンダ性など、内容面でいろいろなことが言われてきた。だが、ここで指摘したいのは、内容以前に、手法においてドキュメンタ…

アウトレイジ(北野武)

「んじゃ」という会長(北村総一朗)の短くも締まらない挨拶で、暴力団山王会の幹部会合がお開きとなる。その中で、直系の池元組組長(國村隼)だけが、若頭の加藤(三浦友和)に呼び止められ怪訝そうな表情を浮かべる。系列外の村瀬組との付き合いに苦言を…

ビルマVJ――消された革命(アンダース・オステルガルド)

二〇〇七年八月に湧き起こった、ビルマ(「ビルマ」と呼ぶか「ミャンマー」と呼ぶかは、言説の立場を決定する問題だが、ここでは作品名にしたがって「ビルマ」と呼ぶ)での大規模デモ(燃料費大幅値上げに端を発した僧侶や市民によるもの)を追う、この映像…

カノジョは大丈夫(安川有果)

今年もふらっと「桃まつり」(自ら映画を製作・配給・宣伝する女性監督を中心とする集合体)に行き、何本か若手女性監督の短編を見た。 なかでは、安川有果の『カノジョは大丈夫』がよかった。内容云々というより、映画の画を見せてくれたからだ。 ストーリ…

監獄の記憶(ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス)

ブラジルの映像作家、ネルソン・ペレイラの作品を、今回京都ではじめて見ることができた。 “シネマ・ノーヴォ”運動の先駆となり、ゴダールやトリュフォーに多大な影響を与えた『リオ40度』(1956年)も良かったが、ここでは『監獄の記憶』(1984年)につい…

ストーカー、ノスタルジア(タルコフスキー)

特集をやっていたので、久し振りにタルコフスキーを2本、映画館で見た。 作品の内容は、今さら触れるまでもないだろう。今回見ていて感じたのは、要するにタルコフスキーは、ニーチェ的な「最後の人間=究極のニヒリスト」ではないかというスラヴォイ・ジジ…

カントの人間学(ミシェル・フーコー)

カントの人間学作者: ミシェルフーコー,Michel Foucault,王寺賢太出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/03/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 40回この商品を含むブログ (20件) を見る 今週発売の「週刊読書人」(5月21日号)に、上記の書評「小説を…

クロッシング(キム・テギュン)

1000人超にわたる「脱北者」に取材を重ね、助監督はじめ30人あまり実際の脱北者がスタッフに加わっていると聞く。 北朝鮮問題のジャーナリストで知られる石丸次郎なども、その映像は「まるで90年代の北朝鮮からそのまま切り取ってきたかのようであ」…

詩的間伐 対話2002―2009(稲川方人+瀬尾育生)

詩的間伐―対話2002‐2009作者: 稲川方人,瀬尾育生出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2009/10メディア: 単行本 クリック: 26回この商品を含むブログ (3件) を見る 映画芸術 2010年 05月号 [雑誌]出版社/メーカー: 編集プロダクション映芸発売日: 2010/04/30メデ…

息もできない(ヤン・イクチュン)

中上健次を読んでいるときのように、ひりひりする。 狭く急斜面の坂の両側に、貧しげな家々がたち並ぶ路地。そこは、絶望的なまでに暴力が連鎖し、世代をまたいで反復される「息もできない」空間だ。 主人公のサンフン(監督自らが演じている)は、幼い頃、…

怒る西行(沖島勲)

バカバカしくも痛快だった前作『一万年、後…。』の「後」だけに、いったい沖島が、いかなる「後」を見せてくれるのか。しかも寡作で知られるこの監督にしては、前作から2年というハイペースだ。 完全に意表をつかれた。何と沖島自らが出演、しかも玉川上水…

第9地区(ニール・ブロムカンプ)

各方面で評価が高く、勝手に社会派SFを想像していたが、現代版カフカ「変身」?! だった。 南アフリカ、ヨハネスブルグ上空に宇宙船が停滞、強行突入を試みると中には痩せ衰え、餓死寸前の異星人たちが。その風貌から「エビ」と呼ばれる彼らは、救助と銘打…

鮎川信夫のユートピア

現代詩手帖 2010年 04月号 [雑誌]出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2010/03/29メディア: 雑誌 クリック: 11回この商品を含むブログ (1件) を見る 「現代詩手帖」4月号に、「鮎川信夫のユートピア ソルジェニーツィン・内村剛介・石原吉郎」が掲載されていま…