2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

遅すぎる、早すぎる――小柳玲子と石原吉郎 その6

繰り返せば、石原にとって、詩とは「沈黙」するための言葉だった。 そこにあるものは/そこにそうして/あるものだ 見ろ/手がある/足がある/うすらわらいさえしている 見たものは/見たといえ〔…〕(「事実」) 明らかに「事実」について、はなから記述す…

遅すぎる、早すぎる――小柳玲子と石原吉郎 その5

石原は、選んで「断念」したのではない。「形式」の輪郭でもって性や情動を「断念」しなければ言葉を発し得なかったのである。 花であることでしか/拮抗できない外部というものが/なければならぬ〔…〕 そのとき花であることは/もはや ひとつの宣言である…

遅すぎる、早すぎる――小柳玲子と石原吉郎 その4

そして、小柳は、この石原の「形式=定型=枠」へのこだわりが、「性」の問題とも関わっていると見ていた。小柳はアトリエや画廊を経営し主宰する人間だったので、「大体石原吉郎の絵画の好みは幻想派のものであり、文学臭の強いものである」とその偏りを評…

遅すぎる、早すぎる――小柳玲子と石原吉郎 その3

石原吉郎は己をサンチョ・パンサである、と思う意識が強かった。強大な敵に向かってガムシャラにつっこんでいく日本というドン・キホーテは、多くのサンチョに「わしに従いてくれば、やがて島を一つ与え、そこの王様にしてやる」といったわけなのだ。揚句、…

遅すぎる、早すぎる――小柳玲子と石原吉郎 その2

まずは、小柳玲子が詩を読んでいた頃に持っていた石原吉郎への尊敬を失っていった、いくつかの「断片」を見てみよう。石原の死の三年前にあたる一九七四年、石原は詩人・杉克彦の三回忌を行わなかったと言って、なぜか小柳を非難する。 「杉君の三回忌、とう…