2009-01-01から1年間の記事一覧
特に、懐古趣味や「映画への愛」を持ち合わせているわけではないのだが、ぶらっと映画の誕生日を祝いに行った。今から114年前の1895年12月28日、パリのグラン・カフェでリュミエール兄弟が最初の映画上映を行なった。大阪・中崎町のミニシアター「PLANET +…
寒々しく無機質なコンクリート作りの戦争遺跡、トーチカ(防御陣地)。敵を狙い撃つための小窓から、カメラのファインダーを覗くように女が目を凝らすと、外には男がひとり寒空の下にたたずんでいた――。 日本最東端のロシア国境の町、北海道根室。そこには連…
新潮 2010年 01月号 [雑誌]出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/12/07メディア: 雑誌購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (15件) を見る 発売中の「新潮」1月号に、この本の書評(というか批判)「「妄説」を語るのは誰か?」が掲載されています…
ムーアの映画を、あれこれあげつらうのはたやすい。リーマンショック後に、急いで仕上げられた感のある今作は、特にそうだろう。だが、いまだかつて、「資本主義」などというタイトルで映画を撮った者があっただろうか。 「今回は最後の映画になるかもしれな…
まさか、タランティーノを見に行って、村上春樹を思い出すとは思わなかった。 「ユダヤハンター」の異名を持つナチスの大佐ランダ。彼に家族を皆殺しにされた娘ショシャナ。こうくれば、もう後は、タランティーノお得意の復讐劇だ。物語は、ショシャナの復讐…
少し前になるが、妻の南田洋子の死に際して開かれた長門裕之の会見を見ていて、ふと認知症の身体はいったい誰のものなのだろうかと思った。南田が認知症になってからというもの、長門は本を出版したりTV番組に出演したりして介護の状況を赤裸々に公開して…
近畿大学文芸学部でイベントを行います。学内外問わず、参加できます。日時:12月9日(水) 16:30〜18:30 場所:近畿大学文芸学部 A館301教室 ゲスト:松浦寿輝氏(作家、詩人、批評家、東京大学大学院教授) 松浦氏講演のあと、松浦氏、八角聡仁氏(近畿大学教授…
学内外問わず、参加できますのでぜひ。パネリスト 笠井潔氏(作家、批評家) 小森健太朗氏(近畿大学教授、作家) 長谷川壌氏(近畿大学OB) 司会 渡邉大輔氏(映画研究者、文芸批評家) 場所 近畿大学Eキャンパス(文芸学部) A館301教室 日時 11月20日…
チーズfilmの戸田彬弘監督が呼びかけ人となり、新世界のど真ん中で上映会を行います。 6人の若手新鋭映画監督の作品を一挙大公開致します。 私は、15日の13時からのオープニングシンポジウムに出演します。 会場へのアクセスや他のイベントなど、詳しくはこ…
圧巻である。間違いなく、今年の3本に入るだろう。 中年の女性(キム・ヘジャ)が、重く疲れきった足取りで枯れ野をさまよい歩いている。タンゴ調の挿入歌とともに、やおら体を揺らしながら踊り出す。だが、ダンスというには表情はどこか悲しげだ。踊りなが…
NHKの「中学生日記」や、上映中の『のんちゃんのり弁』などの脚本が評判の鈴木卓爾、その監督長篇デビュー作である。カメラがたむらまさき、音響設計が菊池信之、音楽が蓮実重臣といった面々がスタッフとして結集している。 劇的なものは何もない。自称「…
見逃した方も、もう一回見たいという方も、この機会にぜひ!10月30日(金)19時〜 ※トークイベント有り 10月31日(土)18時〜 ※トークイベント有り 場所:ビジュアルアーツ専門学校大阪校 新館1Fテレビスタジオ特設会場(最寄り駅・JR北新地駅) 料金:1000…
「現実の女は面倒だ」という板尾創路演じる中年男が、日常(食事も仕事のグチもセックスも)を「共に」するのは、スタイルも顔も完璧な「空気人形」(いわゆる「ダッチワイフ」)。だが、その人形が、ある日心を持ち、ビデオ店の店員(ARATA)に恋をす…
空港のトイレでゆっくりと太極拳を行なっている男が、鏡に映っているかのように、いきなり逆さまに映し出される。「孤独な男」というコードネームを持つ殺し屋だ。彼は、その後「自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ」というミッションを受けることになる。…
ストリートの思想 転換期としての1990年代 (NHKブックス)作者: 毛利嘉孝出版社/メーカー: NHK出版発売日: 2009/07/28メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 12人 クリック: 177回この商品を含むブログ (62件) を見る たちの悪い冗談なのだろうか、今「思想…
デビュー作『あんにょんキムチ』以来、松江哲明の作品は、いくつかちらちら見てきたが、この新作には、旧作に見られる韓国、AV、ダメ男(の純粋さ)といったテーマ群が総動員されており、その意味でひとつの到達点を示している。 2005年に急逝したAV女優…
はじめからヘリコプターで運べばいいものの、一分一秒を争う人質救済のための1000万ドルを、わざわざバイクと現金輸送車を爆走させて運ぼうというのだから、交差点での激突や転倒は避けられるはずもない。案の定、派手に事故ってしまい、とても時間まで…
カンヌのグランプリに輝いた、あの『木靴の樹』(1978)のオルミの新作。長篇劇映画としては、これがラストだという。 イタリア、ボローニャの大学図書館で、大量の古文書が、床から机から至るところに張り付けのごとく釘で打ちつけられるという怪事件が勃発…
本当は、モライヨーリの『湖のほとりで』に触れようと思っていたのだが、あまりに凡作だったので書く気が起こらない。イタリアのアカデミーと言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で史上最多の十部門受賞、さらに監督は、あのナンニ・モレッティの弟子だ…
前に『エンタクシー』誌上で行った、坂口安吾についての座談会が本になりました。文学の器作者: 坂本忠雄出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2009/08/08メディア: 単行本 クリック: 16回この商品を含むブログ (11件) を見る 目次は以下のとおり。 伊藤整「変容…
精神科にカメラを入れ、しかも一切モザイクなし、ナレーションも音楽もなし。監督曰く「虚心坦懐」に患者たちを映し出した映像は、それだけで十分画期的なものだ。とにかく、いろいろと考えさせられる映像だった。 とはいえ、この作品の宣伝文句――タブーに踏…
しばらく映画を見に行く暇がなかったので、学生から質問があった志賀の小説について少し。 といっても、触れたいのは、作品そのものについてではない。この機会に目を通してみた、『文学界』(7月号)に掲載された座談会「文学的模擬裁判――法の言葉で殺意を…
日本浪漫派や保田與重郎がテーマの映画と聞いて、いったいどんな映像なのか、期待と不安を抱えて上映終了間際に観たが、果たして不安の方が的中した。 演劇界のホープ、伊勢谷能宣(燐光群)演じる主人公の青年が、役者としての基礎固めに能を習い、師匠の梅…
超満員。立ち見すら入り切れない。こんなに混んでいる映画館も久々だ。 各種映画賞を受賞した秀作『ゆれる』の西川美和監督の新作だというだけでなく、過疎村の医療問題というテーマが、高い年齢層の観客にも迎えられているのだろう。 だが、作品のテーマは…
浅田彰、中村一義、柴崎友香、千原ジュニアといった、多様で、かつそうそうたる面々がこぞって絶賛していたので、勢い込んで映画館に駆けつけた。だが、残念ながら、「カラックス」のような「疾走感」(浅田)も、「自由」や「生成」(柴崎)も、「圧倒的な…
もちろん、あのクストリッツァの新作なのだから、面白かったに決まっているのだ。だが、あからさまに田舎と都会の差異が導入され、これ見よがしにアダムとイブの楽園追放のストーリーが挿入されることで、何とか物語が駆動していくのを見るにつけても、やは…
先日、「シネ・ヌーヴォ」(大阪・九条)で「ケイブルホーグ・コレクション」としてかかっていた作品。 「ケイブルホーグ」とは、1982年に根岸邦明氏が創立したミニシアターで、サム・ペキンパー、フリッツ・ラング、ジャン・コクトーなどコアでマニアックな…
ここ数日、書評の仕事のために、村上春樹の新作『1Q84』を読んでいた。 “謎とき”はそちらでしておいたが(来週発刊の「週刊読書人」)、ここでは、100万部突破(実売数は不明)の一つのきっかけになったと思われる、エルサレム賞受賞講演について触れたい…
学生が何人か、好きな映画に挙げていたのでDVDで見てみた。 なるほど、セットや衣装のチープさ加減や、何ともいえないガジェット感、物語のあざとさなど、きわめてイマっぽいなと感じた。 「あざとさ」というのは、足に障害を抱え、ほとんどを家で過ごす主人…
この作品において、“グラン・トリノ”とはいったい何なのだろう。 見逃せないのは、コワルスキー(イーストウッド)が、自慢のヴィンテージカー“グラン・トリノ”を乗りまわすようなシーンが一度もないことだ。まるで、それはタオに継承されるためだけに存在し…