cinema

よこがお(深田晃司)

深田晃司は、ずっと「間=あわい」に立ち騒ぐ〝何か〟を撮ってきた人だ。 旧作のタイトルでいえば、「ほとり」や「淵」を見つめてきた人。 ある事件が起きる。 でも、この監督が捉えるのは直接の加害者や被害者ではない。 加害と被害に分岐する手前の、両者…

天気の子(新海誠)

主人公の少年は、離島の核家族に「息苦しさ」を感じて上京しネカフェで生活。 一方、もう一人の主人公の少女は、天気を左右する力を持つ「巫女」で、さらに王子のようなオーラを放つ美しい顔の小学生の弟と訳アリのアパート二人暮らし。 この二人がマクドで…

ハウス・ジャック・ビルト(ラース・フォン・トリアー)

2011年カンヌ映画祭の『メランコリア』上映後の記者会見で、トリアーは「ヒトラーにシンパシーを感じる」と発言し、カンヌから永久追放となった。まさに今作のエンディングよろしく、カンヌから「二度とやって来ないで!」と排除された。 もちろんあの発言は…

誰もがそれを知っている(アスガー・ファルハディ)

シェイクスピアのハムレットは「時間の蝶番が外れてしまった」と言った。そして時間は発狂したように、それまで整序されてきた記憶や歴史がほどけ、亡霊が現れ出た。 今回イランからスペインへと舞台を移したファルハディは、スペインの小さな村とそこに住む…

ペパーミント・キャンディー(イ・チャンドン)

今回、4Kレストア・デジタルリマスター版で見直してみて、改めてこれほどまでに「後悔」を映像化した作品もないと感じた。 (ネタバレになるが)主人公キム・ヨンホの人生を一本のレールに見立てて、列車を後へ後へと逆走させていき、彼の死から生を逆回し…

ブラック・クランズマン(スパイク・リー)

スパイク・リーはいつもあまりに直球なので、ある時期からちょっと食傷気味だったが、これは彼の最高傑作ではないか。 まずは、原題「BlacKkKlansman」(黒の一族の人間)が多義的で示唆的。 今作のテーマである白人至上主義団体KKK「クー・クラックス・…

運び屋(クリント・イーストウッド)

「運び屋」はシジフォスの労働だ。 シジフォスは神々の言いつけで何度となく大きな岩を運ぶが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。どんなに運んでも、いや運べば運ぶほど、重荷から解放されるどころかそれは新たに増すばかりだ。 人生は後…

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー(エルネスト・ダラナス・セラーノ)

キューバのマルクス主義哲学教授の「セルジオ」と、ソ連の宇宙飛行士「セルゲイ」は、冷戦終焉により一夜にしてそれぞれ「エリート」や「英雄」から「過去の遺物」へと転落。ソ連崩壊によって宇宙ステーション「ミール」から帰還できなくなったセルゲイに、…

止められるか、俺たちを(白石和彌)

若松孝二の弟子である本作の監督白石和彌は、本作のラストを「引き」で撮った。それは、若松プロの時代から「遠く離れた」現在を示すとともに、師・若松孝二自体の捉えがたさ、もっと言えば師の映画をこのように描いた白石自身の「自信のなさ」が映し出され…

1987、ある闘いの真実(チャン・ジュナン)

韓国の民主化の映画を見ると、ある種の羨望を覚えずにいられない。冷戦の崩壊は、さまざまな意味でわれわれから「未来」を奪った。だが、まだここでは冷戦が終わっていないのだ。 それが「幻想」であることもよく分かっている。それは、実質的にはとうに「崩…

ドライブイン蒲生(たむらまさき)

人生はドライブインのようだ。 ドライブインのメシは不味い。うまかったら、長居してしまうから。ドライブインは、どこからかやって来た人を、またどこかへと向かわせる、そんな場所でなければならない。それは、来し方と行く末を中継する「橋」だ。 冒頭、…

判決、ふたつの希望(ジアド・ドゥエイリ)

レバノン映画として初めてアカデミー賞にノミネートされた作品。 違法建築の補修作業にやって来た現場監督とその家の住人とのささいな行き違いが、しかし二人がパレスチナ人とレバノン人であり、さらに難民と彼らを差別し排除しようとするキリスト教右派政党…

カメラを止めるな!(上田慎一郎)

(本稿はネタバレを含みます) ゾンビが泥酔してゲロを吐いたり、腹を下して外で下痢便したりする。そのたびに、映画館は大爆笑だ。 この夏の「事件」と言ってもいい大ヒット作『カメラを止めるな!』は、リアリティとは何かを追求した作品だ、とひとまずは…

ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン)

オートクチュールの仕立て屋で完璧主義の職人「レイノルズ」(ダニエル・デイ=ルイス)が、後半、自らのハウスの従業員が他のハウスに黙って移っていったことを、姉のシリルから聞かされる場面。姉が「今はシックな服を好む人も多いから」と、「シック」と…

生政治とプロレタリア独裁――ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』のために

ジジェクが言うように、「生政治は恐懼の政治であり、あり得べき犠牲化や嫌がらせ(ハラスメント)に対する防御として定式化される」(以下、引用は『ロベスピエール/毛沢東』長原豊、松本潤一郎訳より)。移民への懼れ、犯罪への懼れ、生態環境の破局への…

ザ・スクエア 思いやりの聖域(リューベン・オストルンド)

地面に正方形(スクエア)が描かれているだけのアート作品「ザ・スクエア」。 ここでは誰もが平等の権利と義務をもつ。誰かがここで助けを求めたら、周囲の人間は誰もが助ける義務がある。傍観者であることが許されない「思いやりの」領域。映画は、この現代…

女は二度決断する(ファティ・アキン)

一行目からネタバレがある。 ラストの自爆をどう考えるかだろう。 これを、夫と子供をテロで失った主人公「カティヤ」(ダイアン・クルーガー)による復讐と捉えれば、裁判で証拠不十分のため「無罪」となったネオナチの実行犯二人を、自らの手で裁こうとす…

素敵なダイナマイトスキャンダル(冨永昌敬)

「写真時代」はじめ、発禁と創刊を繰り返しながら、カルチャー・エロ雑誌を次々と世に送り出した雑誌編集長、末井昭の自伝エッセイの映画化。荒木経惟、南伸坊、赤瀬川原平、嵐山光三郎といった当時の「表現者」との邂逅、交通が描かれるが、直接は登場しな…

デトロイト(キャスリン・ビグロー)

「銃はどこだ!」「発砲した奴はどいつだ!」「言わないとまた死人が出るぞ!」 壁に手をついたまま、銃を体につきつけてくる警官たちの怒声を背中に浴び続ける。一人一人別室に連れこまれリンチを加えられる。 『ハート・ロッカー』、『ゼロ・ダーク・サー…

月夜釜合戦(佐藤零郎)その2

本作に登場する男たちは、何らかの釜ヶ崎の記憶=歴史を背負っている。二代目を継ぐはずのタマオがしばらくこの地を離れていたのは、「仁吉」(川瀬陽太)に向かって吐き捨てるように、組のやくざが警官と共謀し賄賂をやり取りしていたことが発覚した、一九…

月夜釜合戦(佐藤零郎)その1

16ミリフィルムで撮られた本作を映し出そうと、劇場内に運び込まれた映写機のカタカタ回る音が、自転車の女がこぐペダルの音と重なるように映画が始まる。この映画館(神戸元町映画館)に普段は存在しない映写機が劇場後方に陣取っており、訪れた観客誰もが…

否定と肯定(ミック・ジャクソン)

ホロコーストはあったか、なかったかをめぐる2000年の法廷闘争の映画化だ。 ユダヤ人女性歴史学者と、「ホロコーストはなかった」と主張する否定論者であるイギリスの歴史作家が、イギリス王立裁判所で対決する。原題は「Denial」(否認)。この原題「否認」…

散歩する侵略者(黒沢清)

「侵略者」たちは、地球人の身体を乗っ取り、次に彼らの思考の言語化である「概念」を盗み取る。心身ともに地球人となることで、地球を侵略してしまおうというのだ。概念を抜き取られた地球人は、それにまつわる思考を失ってしまう。その姿は、まるでまだそ…

ローサは密告された(ブリランテ・メンドーサ)

主演女優のジャクリン・ホセが、東南アジアの女優では初めてカンヌ国際映画祭主演女優賞(2016年)を受賞したことでも話題となった作品だ。 フィリピン、マニラのスラム街。その片隅でサリサリストア(雑貨屋)を営む夫婦には四人の子供がおり、生活は貧しい…

君の膵臓をたべたい(月川翔)

すでに盛んに言われているように、本作は(少なくとも映画版は)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(小説2001年、映画版2004年)と似ている。だが、本当に目を引くのは、むしろ類似ではなくその差異だ。 いちいちストーリーは追わないが、まず本作『キミスイ』…

22年目の告白――私が殺人犯です(入江悠)その2

東浩紀の新刊『観光客の哲学』とは、「必然性」の最後の領域と思われてきた「家族」にまで、「偶然性」を導入した「思想」にほかならない。 世界は「偶然性=確率性」で覆い尽くされていると見なすこと。そこで言われる、「「まじめ」(必然性)か「ふまじめ…

22年目の告白――私が殺人犯です(入江悠)その1

「私が生きのびたのは、おそらく偶然によってであったろう。生きるべくして生きのびたと、私は思わない。」「生き残ったという複雑なよろこびには、どうしようもないうしろめたさが最後までつきまとう。」「生きている限り、生き残ったという実感はどのよう…

セールスマン(アスガー・ファルハディ)その2

それは、後々判明するように(したがってネタバレになるが)、ラナをレイプした犯人が、まさに60歳を超えているだろう、くたびれたセールスマンだったからだ。 エマッドは劇でセールスマンのウィリーを演じることで、バスルームで一人シャワーを浴びていた…

セールスマン(アスガー・ファルハディ)その1

冒頭、ベッドやイス、テーブルなどの家具が映し出される。 すると、いきなり外で「早く逃げろ、建物が崩れるぞ!」と叫び声がする。エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドゥスティ)夫婦も、何が起こったのか分からぬまま、とるものもとりあ…

ちょっと今から仕事やめてくる(成島出)

ご都合主義的な設定や展開といい、その結末といい、とても作品として評価はできない。なかでも、ラストのボツワナとその子供の表象のされ方は、ポスコロやカルスタどころではない、何か決定的に政治感覚の劣化の底が抜けた感があり、唖然とするほかない(北…