パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ)

 韓国の半地下住宅は、もともと朴正熙の軍事政権時代、「北」の脅威に備えるための防空壕だった。それがやがて、とりわけIMF危機以降、社会の格差拡大とともに、低所得者層の住宅へとスライドしていったのである。つまり、「半地下」とは、軍事政権から民主化へと移行していった韓国における、「統治」の変化を示している場所なのだ。

 

 有事に備えた場所が平常時のものになること。だが、それは「有事=戦争」の消滅を意味しない。「有事=戦争」自体が平常時に浸透し拡散しただけだ。あのバースデーパーティーのシーンで、それが一気に露呈するのである。

 

 だとしたら、半地下の家族に染み付いた「臭い」とは、軍事政権から民主化解放を果たしたかに見える韓国に、いまだなお染み付いた「有事=戦争」の「臭い」そのものだろう。これは同じ「民族」でありながら、どこかに残存してしまう敵対性(北)の脅威の「臭い」なのだ。この「臭い」は、いくら拭っても韓国という国にパラサイトして離れない。そしてそれは、普段は半地下に押し込められていなければならないのだ。

 

中島一夫