2012-01-01から1年間の記事一覧

尼僧ヨアンナ(イエジー・カヴァレロヴィッチ)

ポーランド映画祭からもう一本。 カヴァレロヴィッチは、『夜行列車』も捨てがたいが、ここでは『尼僧ヨアンナ』を取り上げよう。原作は、1634年にフランス・ルーダンで起こった尼僧の集団憑依事件を題材にした、ヤロスラフ・イヴァシュキェヴィッチの小説『…

鉄路の男(アンジェイ・ムンク)

「ポーランド映画祭」が大阪(九条)に来ているので、この機会にアンジェイ・ムンクをまとめて見たが、これがすこぶる面白い。ワイダやポランスキーより上ではないか。 1921年クラクフ生まれのムンクは、ナチス占領期にワルシャワに移住。44年のワルシャワ蜂…

田村孟 全小説集

田村孟全小説集作者: 田村孟出版社/メーカー: 航思社発売日: 2012/09/30メディア: 単行本 クリック: 13回この商品を含むブログを見る 「週刊読書人」12月7日号に、上記の書評が掲載されています。

人生の特等席(ロバート・ローレンツ)

脚本的にも映像的にも、決して絶賛できる作品ではないものの、それでも何かを語りたくなるのは、やはりイーストウッドの「亡霊」が漂っているからだろうか。自ら一つの幕引きをはかったはずの『グラン・トリノ』の残響が、至る所で立ち騒いでいる作品だ。 次…

チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢(マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー)

マチュー・アマルリックを見たくて観に行った。 そのアマルリックの演技が目立たないほど、CGやアニメ、切り絵細工や影絵などを駆使した凝りに凝った画面が魅力の映画だ。 1958年のイラン。アマルリック扮する天才バイオリニストは、家庭のことはそっちの…

倭奴(イエノム)へ 在韓被爆者 無告の二十六年(「倭奴」制作推進委員会、NDU日本ドキュメンタリストユニオン)

いまだに「日本は唯一の被爆国」と言い続けている者たちに対して、この映画は「あなたがたはヒロシマで何も見ていない」(アラン・レネ)と言い続けるだろう。 釜山のスラム街に住む人々へのインタビューをもとに、強制徴用や徴兵によって日本に連行され、広…

インディーズ作品4本を見る

映画芸術 2012年 11月号 [雑誌]出版社/メーカー: 編集プロダクション映芸発売日: 2012/10/30メディア: 雑誌 クリック: 11回この商品を含むブログ (3件) を見る 今号の「映画芸術」に、「歴史=記憶から離れた場所で インディーズ作品4本を見る」が掲載され…

希望の国(園子温)

東日本大震災から数年後、「長島県」の原発都市を大地震が襲った。原発事故が発生し、20キロ圏内が立ち入り禁止区域に。容赦なく民家の庭にも杭が打たれ、「KEEP OUT」の黄色いテープが張り巡らされていく。昨日まで、自宅で作った野菜を互いに交換し合っ…

辺境最深部に向って退却せよ!(太田竜)

先日のトークセッションの付記をもうひとつ。 いまだに「日本は唯一の被爆国」という言説が、恥ずかしげもなくまかり通っているということが話題にあがったとき、本書の太田竜が、それこそいまだに有効なのではないかと思った。 太田は、本書において、さか…

『津村喬精選評論集』(論創社)刊行記念トークセッションが終了

上記評論集の著者である津村喬氏と、編者のすが秀実氏によるトークセッションに、司会として参加した。話は多岐にわたったが、ここでは、言葉の奪還としての津村思想について、簡単にふりかえっておきたい。 津村氏の広大な思考の根底には、次のような感覚が…

津村喬精選評論集―“1968”年以後作者: 津村喬,〓@5FA3@秀実出版社/メーカー: 論創社発売日: 2012/07/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 35回この商品を含むブログ (3件) を見る 『津村喬精選評論集』(論創社)刊行記念 トークセッション@京都 津村喬(…

夢売るふたり(西川美和)

「人間、この嘘つきなるもの」というテーマは健在だが、この新作では、むしろ女性の孤独、迷いにウェイトがあると感じた。 そもそも、さほどイケメンでもない中年男の「貫也」(阿部サダヲ)に、次々と結婚詐欺が可能なのも、女性の側に、それを受け入れてし…

カルロス(オリヴィエ・アサイヤス)

アサイヤスは、カルロスは現代の神話であり、映画のタイトルは「CARLOS,ROMAN」でもよいと言っている。まさに、どこか「ROMAN」をかきたてられる、久々に魅力的な人物がスクリーンに登場した。 カルロス演じたエドガー・ラミレスの存在感は、アサイヤスをし…

アレクサンダー大王(テオ・アンゲロプロス)

もうこの一本しか日本にはないそうだ。1980年公開のフィルムは、すっかり赤みがかっていた。 この一本のフィルムが、「追悼特集」で、全国の劇場を「旅芸人」のように転々としている。そう思うと、何ともアンゲロプロスらしい。そして、208分という「…

トガニ――幼き瞳の告発(ファン・ドンヒョク)

韓国社会は、想像以上に壊れているのだろうか。 先日の「朝鮮日報」の記事にはこうある。「世界最高の自殺率、伝染病のように広がるうつ病、学級崩壊、増加する性犯罪、大統領府や国会から工事現場の寄宿舎に至るまで漫然としている腐敗や汚職…」。「韓国社…

かぞくのくに(ヤン・ヨンヒ)

8・15に見に行った。 この間、にわかにきな臭くなってきた領土問題ひとつ見ても、戦争が終わったと思い込んできたのは日本人だけではないか。 確かに、8月15日以降になってソ連へと運ばれ抑留されることで、継続する戦争に否応なしに巻き込まれていっ…

きっとここが帰る場所(パオロ・ソレンティーノ)

何とも不思議な作品だ。 物語も人物の描かれ方も今ひとつなのに、妙に癖になる面白さだ。この監督には、構図といいつなぎ方といい独特の映像感覚がある。ショーン・ペンがほれ込んだのも分かる。彼の演じる主人公シャイアンの決めゼリフではないが、「何かヘ…

ブラック・ブレッド(アウグスティ・ビリャロンガ)

もはやアルモドバルの作品を見ても、ほとんどスペインの生命力を感じることはできない。それは、良くも悪しくもグローバルになってしまった。新作『私が、生きる肌』の、地に足の着いた生活から完全に遊離したアッパーぶりからは、現在の財政状況にあえぐス…

私が、生きる肌(ペドロ・アルモドバル)

最も理解しがたいのが、いくら性転換と全身整形を施されたからといって、愛娘を強姦した男がベースとなっている身体を、はたして人はそう簡単に愛せるものだろうかということだ。それとも、これはあまりに凡庸な問いだろうか。だが、この作品では、アルモド…

ありきたりの映画(ジャン=リュック・ゴダール+ジガ・ヴェルトフ集団)

今さらゴダールを見て、革命でもないことなどよく分かっている。 だが、「さらば〝映画〟よ。これから〝政治〟の時代を始める」という誘い文句につられて、ついついシネ・リーブルの「ゴダール特集」に通ってしまった。 今作ははじめて見たが、草っ原で学生…

ル・アーヴルの靴みがき(アキ・カウリスマキ)

「戻ったよ」「そうね、何か作るわ」。 淡々と無表情で言葉少なに交わされる夫婦の会話。でも、なぜか暖かい。 思うにカウリスマキほど、人間の感情やコミュニケーションを信じていない作家もいない。逆にそこが信用できるのだ。人の感情は、得てして過剰で…

別離(アスガー・ファルハディ)

「アラブの春」が混迷をきわめている。 次々と長期独裁体制を打倒していった、アラブの若者たちによる民主化の波は、だが選挙を通じて、ムスリム同胞団などイスラーム原理主義集団に、その成果を簒奪されつつあるように見える。まるで、1979年のイラン・イス…

鎌田哲哉に再反論する

「週刊読書人」4月13日号の鎌田哲哉『「プロレタリア独裁まであと一歩」はどこに消えたか?――中島一夫への答え』を読んだ。あいかわらず言いたい放題に言っているが、ローザ主義の鎌田が、プロレタリア独裁だけはできれば遠ざけておきたいということはよ…

果てなき路(モンテ・ヘルマン)

自分が魅せられ虜になった女優を独り占めにした挙句、彼女に抱く「夢」を、カメラという合法的な「武器」で思いのままに実現させていく。映画監督とは、何とまあ身勝手でうらやましい職業なのだろうか。 モンテ・ヘルマン、21年ぶりの新作は、その映画監督…

反原発と毛沢東主義

述〈5〉反原発問題 (近畿大学国際人文科学研究所紀要)作者: 近畿大学国際人文科学研究所,近畿大国際人文科学研究所=出版社/メーカー: 論創社発売日: 2012/03メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 35回この商品を含むブログ (1件) を見る「述5」に、上記論文…

ポエトリー アグネスの詩(イ・チャンドン)

伏線の張り方と回収の仕方が巧い。後から振り返ると、すべてが見事につながっている。 『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドンの新作である。初老の女性「ミジャ」は、ヘルパーのパートと生活保護で何とか生活しているものの、釜山に出稼ぎに行った…

サウダーヂ(富田克也)

その瞬間、完全にヤラれた。 土方の男「精司」が、暴走族が通りにひしめく、栄えし頃の甲府の街を一人歩くクライマックスシーンで、まさかのBOØWY「わがままジュリエット」が大音量で流れてきた瞬間である。 精司がタバコをくわえると、見知らぬ黒服の男がす…

生きてるものはいないのか(石井岳龍)

石井聰互改め岳龍、十年ぶりの新作だという。 大学と附属病院(全体として、現代社会を映し出すメタファー的空間となっている)を舞台に、前半、日常に頽落していた登場人物たちが、後半次々に死んでゆく。ストーリーらしいストーリーはそれだけだ。いわゆる…

鎌田哲哉の「歴史の偽造」について

座談会における鎌田哲哉氏の私についての発言(というか放言)に対する反論が、今週号の「週刊読書人」の掲載されています。紙幅の都合で意を尽くしたとは言い難いので、考えていたことについては、必要に応じて今後こちらにアップするかもしれません。(中…

J・エドガー(クリント・イーストウッド)

歴代アメリカ大統領も恐れたという、あの豪腕のFBI長官、J・エドガー・フーヴァーを演じるのが、なぜレオナルド・ディカプリオなのか? そんな最大の疑問も、今作の脚本が、ガス・ヴァン・サント『ミルク』のダスティン・ランス・ブラックと聞いて「もし…