疎外と天皇(三島、江藤、柄谷)

拙稿「江藤淳と新右翼」(『江藤淳 終わる平成から昭和の保守を問う』)は、「右からの六八年=保守革命」(フォルカー・ヴァイス『ドイツの新右翼』)の文脈で、江藤と三島を捉え直してみたものだ。だが、柄谷行人が「新しい哲学」(1967年、『柄谷行人初期…

よこがお(深田晃司)

深田晃司は、ずっと「間=あわい」に立ち騒ぐ〝何か〟を撮ってきた人だ。 旧作のタイトルでいえば、「ほとり」や「淵」を見つめてきた人。 ある事件が起きる。 でも、この監督が捉えるのは直接の加害者や被害者ではない。 加害と被害に分岐する手前の、両者…

天気の子(新海誠)

主人公の少年は、離島の核家族に「息苦しさ」を感じて上京しネカフェで生活。 一方、もう一人の主人公の少女は、天気を左右する力を持つ「巫女」で、さらに王子のようなオーラを放つ美しい顔の小学生の弟と訳アリのアパート二人暮らし。 この二人がマクドで…

ハウス・ジャック・ビルト(ラース・フォン・トリアー)

2011年カンヌ映画祭の『メランコリア』上映後の記者会見で、トリアーは「ヒトラーにシンパシーを感じる」と発言し、カンヌから永久追放となった。まさに今作のエンディングよろしく、カンヌから「二度とやって来ないで!」と排除された。 もちろんあの発言は…

誰もがそれを知っている(アスガー・ファルハディ)

シェイクスピアのハムレットは「時間の蝶番が外れてしまった」と言った。そして時間は発狂したように、それまで整序されてきた記憶や歴史がほどけ、亡霊が現れ出た。 今回イランからスペインへと舞台を移したファルハディは、スペインの小さな村とそこに住む…

ニックランドと新反動主義(木澤佐登志)

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書) 作者: 木澤佐登志 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/05/26 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る ニックランドとCCRUがこうした冷戦終了後の90年代に現れたのはその…

江藤淳と新右翼

江藤淳: 終わる平成から昭和の保守を問う 作者: 中島岳志,平山周吉 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/05/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本誌に、上記批評が掲載されています。 よろしくお願いいたします。

いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論(田中美津)

いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論 (河出文庫―ウイメンズコレクション) 作者: 田中美津 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 1992/03 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 2回 この商品を含むブログ (1件) を見る 一九九〇年代後半、アジアに対…

〈空白〉の根底 鮎川信夫と日本戦後詩(田口麻奈)

〈空白〉の根底 鮎川信夫と日本戦後詩 作者: 田口麻奈 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2019/03/14 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書をご恵投いただきました。 いつも論考を拝読している、現代詩の研究者である田口麻奈氏による、鮎川信夫…

あるリベラリスト(高見順) その2

作品前半には、そのリベラリズム=文学が、切断されないまま、負け続けることで勝ち続けるものとなっていく、その予兆が描かれているように思う。 冒頭、「進歩的な文芸評論家」と目されている「秀島」が、C町文化会で講演を行うところから作品は始まる。与…

あるリベラリスト(高見順) その1

草のいのちを 高見順短篇名作集 (講談社文芸文庫) 作者: 高見順 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2015/09/11 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 1951年発表のこの小説は、社会主義者として「大正」期の初期社会主義文学運動に関わり、今や周囲…

ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム(松本潤一郎)

ドゥルーズとマルクス――近傍のコミュニズム 作者: 松本潤一郎 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2019/02/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書をご恵投いただきました。 中上健次は「物語とは、資本である。物語論とは、資本論である」…

ペパーミント・キャンディー(イ・チャンドン)

今回、4Kレストア・デジタルリマスター版で見直してみて、改めてこれほどまでに「後悔」を映像化した作品もないと感じた。 (ネタバレになるが)主人公キム・ヨンホの人生を一本のレールに見立てて、列車を後へ後へと逆走させていき、彼の死から生を逆回し…

ブラック・クランズマン(スパイク・リー)

スパイク・リーはいつもあまりに直球なので、ある時期からちょっと食傷気味だったが、これは彼の最高傑作ではないか。 まずは、原題「BlacKkKlansman」(黒の一族の人間)が多義的で示唆的。 今作のテーマである白人至上主義団体KKK「クー・クラックス・…

ドイツの新右翼(フォルカー・ヴァイス)

ドイツの新右翼 作者: フォルカー・ヴァイス,長谷川晴生 出版社/メーカー: 新泉社 発売日: 2019/01/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 話題の本書によれば、ドイツの保守は伝統的にヨーロッパを「夕べの国」と呼んできた。この概念については…

運び屋(クリント・イーストウッド)

「運び屋」はシジフォスの労働だ。 シジフォスは神々の言いつけで何度となく大きな岩を運ぶが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。どんなに運んでも、いや運べば運ぶほど、重荷から解放されるどころかそれは新たに増すばかりだ。 人生は後…

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー(エルネスト・ダラナス・セラーノ)

キューバのマルクス主義哲学教授の「セルジオ」と、ソ連の宇宙飛行士「セルゲイ」は、冷戦終焉により一夜にしてそれぞれ「エリート」や「英雄」から「過去の遺物」へと転落。ソ連崩壊によって宇宙ステーション「ミール」から帰還できなくなったセルゲイに、…

1968年と宗教

少したってしまったが、先日12月15日、京大人文研で行われた公開シンポ「1968年と宗教」の後半から聴いた。講演者に武田崇元、すが秀実、聴衆に津村喬、外山恒一といった錚々たる面々が一堂に会するという、またとない機会だった。配布資料が膨大で、正直い…

止められるか、俺たちを(白石和彌)

若松孝二の弟子である本作の監督白石和彌は、本作のラストを「引き」で撮った。それは、若松プロの時代から「遠く離れた」現在を示すとともに、師・若松孝二自体の捉えがたさ、もっと言えば師の映画をこのように描いた白石自身の「自信のなさ」が映し出され…

江藤淳と「開かれた皇室」論

江藤淳が、いわゆる「開かれた皇室」論に否定的だったのは当然だが、それはそれによって「共和制に近づく」と考えていたからであった。 大原康男 歯止めを失った“開かれた皇室”とは何か。そのゆきつく先は、皇室の本来もっている尊貴性を失って大衆社会に埋…

小谷野敦氏の批判について

小谷野敦が、拙稿「江藤淳のプラス・ワン」(「子午線vol6」)を次のように批判している。 中島は江藤が、日本国憲法第一条について、「しかし、この第一条を即物的に読めばはっきりしていることは、いわゆる「主権在民」です。「主権在民」という以上は、…

すが秀実の講演「1968年以後の大学」について その2

この「ヒステリー」から「分析家」へとディスクールの移行から、さらにさかのぼってみたい誘惑に駆られる。それは、先日の記事でも書いた「江藤淳とヘーゲル」の問題に関わってくるからだ。 「大学のディスクール」とは、ポスト政治の「専門家=官僚」の支配…

すが秀実の講演「1968年以後の大学」について その1

先日の記事で触れた、すが秀実氏の講演「1968年以後の大学」は刺激的だった。とりわけ末尾に触れたラカンの4つのディスクール(言説)をベースに、大学の現在を読み解こうとする内容はきわめて示唆に富むものだった。以下、簡単にその講演末尾の部分の要旨…

シンポジウム「日本近代の〈知〉と大学」

学内的な「お祭り」イベントですが、参加自由です。 すがさんの講演「1968年以後の大学」、綱澤さんによる文芸学部創立の頃をめぐる講演(タイトル未定)があります。シンポジウム 『日本近代の〈知〉と大学』10月16日 15時〜17時アカデミックシアター3号館…

1987、ある闘いの真実(チャン・ジュナン)

韓国の民主化の映画を見ると、ある種の羨望を覚えずにいられない。冷戦の崩壊は、さまざまな意味でわれわれから「未来」を奪った。だが、まだここでは冷戦が終わっていないのだ。 それが「幻想」であることもよく分かっている。それは、実質的にはとうに「崩…

江藤淳とヘーゲル

「子午線6」掲載の「江藤淳のプラス・ワン」で詳しく論じたが、江藤は戦後日本を、民主国ではなく君主国と捉えようとしていた。 江藤 しかし、これについては現行憲法の一条と二条の相互連関をよくよく考えなければいけない。第一条には、天皇は日本国の象…

ドライブイン蒲生(たむらまさき)

人生はドライブインのようだ。 ドライブインのメシは不味い。うまかったら、長居してしまうから。ドライブインは、どこからかやって来た人を、またどこかへと向かわせる、そんな場所でなければならない。それは、来し方と行く末を中継する「橋」だ。 冒頭、…

判決、ふたつの希望(ジアド・ドゥエイリ)

レバノン映画として初めてアカデミー賞にノミネートされた作品。 違法建築の補修作業にやって来た現場監督とその家の住人とのささいな行き違いが、しかし二人がパレスチナ人とレバノン人であり、さらに難民と彼らを差別し排除しようとするキリスト教右派政党…

カメラを止めるな!(上田慎一郎)

(本稿はネタバレを含みます) ゾンビが泥酔してゲロを吐いたり、腹を下して外で下痢便したりする。そのたびに、映画館は大爆笑だ。 この夏の「事件」と言ってもいい大ヒット作『カメラを止めるな!』は、リアリティとは何かを追求した作品だ、とひとまずは…

松本圭二『チビクロ』(『松本圭二セレクション9』)

チビクロ (松本圭二セレクション)作者: 松本圭二出版社/メーカー: 航思社発売日: 2018/06/11メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る「週刊読書人」8月24日号に、上記の書評が掲載されています。web版 ⤵ で読むことができます。 https://dokus…