柄谷行人と韓国文学

柄谷行人と韓国文学 作者:ジョ・ヨンイル 出版社/メーカー: インスクリプト 発売日: 2019/11/30 メディア: 単行本 上記の書評が、「週刊読書人」2月21日号に掲載されています(以下、ウェブ版に全文掲載)。 dokushojin.com

恋人たちは濡れた(神代辰巳)

院生の修論を読みながら、ひさびさにこの映画のことを考えていた。 冒頭、主人公の「克」が、何度も何度も後ろを振り返りながら自転車をこいでいる。何かから逃げているようなその姿は、明らかに翌年(1974年)の『青春の蹉跌』と同型である。『青春』のショ…

パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ)

韓国の半地下住宅は、もともと朴正熙の軍事政権時代、「北」の脅威に備えるための防空壕だった。それがやがて、とりわけIMF危機以降、社会の格差拡大とともに、低所得者層の住宅へとスライドしていったのである。つまり、「半地下」とは、軍事政権から民…

アダムズ・アップル(アナス・トマス・イェンセン)

スキンヘッドの「アダム」は、仮釈放後、更生プログラムでデンマーク田舎の教会にやってくる。部屋にヒトラーのポスターを貼るほどネオナチ思想に染まり切った彼は、牧師の「イヴァン」(マッツ・ミケルセン)の言うことを、はなから受け入れる気がない。あ…

ユーチューバーという労働

先日、知り合いの子供たちが「ユーチューバーごっこ」をやっている光景を目にして、軽い衝撃を受けた。実際に配信しているわけではないようだが、トップユーチューバーを真似て、カメラの前で「番組」の動画を撮影しているという。ユーチューバーは、中学生…

JOKERと黛ジュン、あるいはノックの近さについて

かくして自我は法や愛や人倫などのような規定をすべて価値のないものとみ、単なる仮象とみるのであり、この自我がそれ自身のうちに集中すること、これがすなわちフリードリッヒ・シュレーゲルによって創案され、他の人々によって復誦されたイロニーであり、…

帰れない二人(ジャ・ジャンクー)

ジャ・ジャンクーの中国は、いつも懐かしい。 前作『山河ノスタルジア』の、あるいは代表作『長江哀歌』のタイトル通り、ノスタルジーやエレジーに満ちている。北京五輪あたりから、まるで中国は、かつて日本に起こったことが大規模かつ早回しに映し出される…

上級国民と一夫多妻

上級国民/下級国民 (小学館新書) 作者: 橘玲 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2019/08/01 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 2019年4月の池袋における車の暴走事故以来、ネット上に飛び交うようになった「上級国民/下級国民」という概念について…

疎外と天皇(三島、江藤、柄谷)

拙稿「江藤淳と新右翼」(『江藤淳 終わる平成から昭和の保守を問う』)は、「右からの六八年=保守革命」(フォルカー・ヴァイス『ドイツの新右翼』)の文脈で、江藤と三島を捉え直してみたものだ。だが、柄谷行人が「新しい哲学」(1967年、『柄谷行人初期…

よこがお(深田晃司)

深田晃司は、ずっと「間=あわい」に立ち騒ぐ〝何か〟を撮ってきた人だ。 旧作のタイトルでいえば、「ほとり」や「淵」を見つめてきた人。 ある事件が起きる。 でも、この監督が捉えるのは直接の加害者や被害者ではない。 加害と被害に分岐する手前の、両者…

天気の子(新海誠)

主人公の少年は、離島の核家族に「息苦しさ」を感じて上京しネカフェで生活。 一方、もう一人の主人公の少女は、天気を左右する力を持つ「巫女」で、さらに王子のようなオーラを放つ美しい顔の小学生の弟と訳アリのアパート二人暮らし。 この二人がマクドで…

ハウス・ジャック・ビルト(ラース・フォン・トリアー)

2011年カンヌ映画祭の『メランコリア』上映後の記者会見で、トリアーは「ヒトラーにシンパシーを感じる」と発言し、カンヌから永久追放となった。まさに今作のエンディングよろしく、カンヌから「二度とやって来ないで!」と排除された。 もちろんあの発言は…

誰もがそれを知っている(アスガー・ファルハディ)

シェイクスピアのハムレットは「時間の蝶番が外れてしまった」と言った。そして時間は発狂したように、それまで整序されてきた記憶や歴史がほどけ、亡霊が現れ出た。 今回イランからスペインへと舞台を移したファルハディは、スペインの小さな村とそこに住む…

ニックランドと新反動主義(木澤佐登志)

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書) 作者: 木澤佐登志 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/05/26 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る ニックランドとCCRUがこうした冷戦終了後の90年代に現れたのはその…

江藤淳と新右翼

江藤淳: 終わる平成から昭和の保守を問う 作者: 中島岳志,平山周吉 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/05/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本誌に、上記批評が掲載されています。 よろしくお願いいたします。

いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論(田中美津)

いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論 (河出文庫―ウイメンズコレクション) 作者: 田中美津 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 1992/03 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 2回 この商品を含むブログ (1件) を見る 一九九〇年代後半、アジアに対…

〈空白〉の根底 鮎川信夫と日本戦後詩(田口麻奈)

〈空白〉の根底 鮎川信夫と日本戦後詩 作者: 田口麻奈 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 2019/03/14 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書をご恵投いただきました。 いつも論考を拝読している、現代詩の研究者である田口麻奈氏による、鮎川信夫…

あるリベラリスト(高見順) その2

作品前半には、そのリベラリズム=文学が、切断されないまま、負け続けることで勝ち続けるものとなっていく、その予兆が描かれているように思う。 冒頭、「進歩的な文芸評論家」と目されている「秀島」が、C町文化会で講演を行うところから作品は始まる。与…

あるリベラリスト(高見順) その1

草のいのちを 高見順短篇名作集 (講談社文芸文庫) 作者: 高見順 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2015/09/11 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 1951年発表のこの小説は、社会主義者として「大正」期の初期社会主義文学運動に関わり、今や周囲…

ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム(松本潤一郎)

ドゥルーズとマルクス――近傍のコミュニズム 作者: 松本潤一郎 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2019/02/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 本書をご恵投いただきました。 中上健次は「物語とは、資本である。物語論とは、資本論である」…

ペパーミント・キャンディー(イ・チャンドン)

今回、4Kレストア・デジタルリマスター版で見直してみて、改めてこれほどまでに「後悔」を映像化した作品もないと感じた。 (ネタバレになるが)主人公キム・ヨンホの人生を一本のレールに見立てて、列車を後へ後へと逆走させていき、彼の死から生を逆回し…

ブラック・クランズマン(スパイク・リー)

スパイク・リーはいつもあまりに直球なので、ある時期からちょっと食傷気味だったが、これは彼の最高傑作ではないか。 まずは、原題「BlacKkKlansman」(黒の一族の人間)が多義的で示唆的。 今作のテーマである白人至上主義団体KKK「クー・クラックス・…

ドイツの新右翼(フォルカー・ヴァイス)

ドイツの新右翼 作者: フォルカー・ヴァイス,長谷川晴生 出版社/メーカー: 新泉社 発売日: 2019/01/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 話題の本書によれば、ドイツの保守は伝統的にヨーロッパを「夕べの国」と呼んできた。この概念については…

運び屋(クリント・イーストウッド)

「運び屋」はシジフォスの労働だ。 シジフォスは神々の言いつけで何度となく大きな岩を運ぶが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。どんなに運んでも、いや運べば運ぶほど、重荷から解放されるどころかそれは新たに増すばかりだ。 人生は後…

セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー(エルネスト・ダラナス・セラーノ)

キューバのマルクス主義哲学教授の「セルジオ」と、ソ連の宇宙飛行士「セルゲイ」は、冷戦終焉により一夜にしてそれぞれ「エリート」や「英雄」から「過去の遺物」へと転落。ソ連崩壊によって宇宙ステーション「ミール」から帰還できなくなったセルゲイに、…

1968年と宗教

少したってしまったが、先日12月15日、京大人文研で行われた公開シンポ「1968年と宗教」の後半から聴いた。講演者に武田崇元、すが秀実、聴衆に津村喬、外山恒一といった錚々たる面々が一堂に会するという、またとない機会だった。配布資料が膨大で、正直い…

止められるか、俺たちを(白石和彌)

若松孝二の弟子である本作の監督白石和彌は、本作のラストを「引き」で撮った。それは、若松プロの時代から「遠く離れた」現在を示すとともに、師・若松孝二自体の捉えがたさ、もっと言えば師の映画をこのように描いた白石自身の「自信のなさ」が映し出され…

江藤淳と「開かれた皇室」論

江藤淳が、いわゆる「開かれた皇室」論に否定的だったのは当然だが、それはそれによって「共和制に近づく」と考えていたからであった。 大原康男 歯止めを失った“開かれた皇室”とは何か。そのゆきつく先は、皇室の本来もっている尊貴性を失って大衆社会に埋…

小谷野敦氏の批判について

小谷野敦が、拙稿「江藤淳のプラス・ワン」(「子午線vol6」)を次のように批判している。 中島は江藤が、日本国憲法第一条について、「しかし、この第一条を即物的に読めばはっきりしていることは、いわゆる「主権在民」です。「主権在民」という以上は、…

すが秀実の講演「1968年以後の大学」について その2

この「ヒステリー」から「分析家」へとディスクールの移行から、さらにさかのぼってみたい誘惑に駆られる。それは、先日の記事でも書いた「江藤淳とヘーゲル」の問題に関わってくるからだ。 「大学のディスクール」とは、ポスト政治の「専門家=官僚」の支配…