2011-01-01から1年間の記事一覧

名前のない男(ワン・ビン)

タイトルといい、テーマといい、私にとってど真ん中過ぎる作品で、大いに心を揺さぶられた。いよいよ今週末関西公開の『無言歌』への序章にもなっていよう。 今となっては誰も暮らしていない、人影もまったくない、廃墟と化した荒野の洞穴に住みついた男。と…

アジアの純真(片嶋一貴)

その過激な内容から、映画館が公開に二の足を踏んでいるという。だが、いったい、何がそんなに問題なのだろうか。 2002年、小泉訪朝によって北朝鮮拉致被害者五名が帰国。北朝鮮バッシングが巻き起こるなか、チマチョゴリの女子高生がチンピラにからまれ、差…

武井昭夫『創造としての革命 運動族の文化・芸術論』

創造としての革命―運動族の文化・芸術論作者: 武井昭夫出版社/メーカー: スペース伽耶発売日: 2011/10/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 25回この商品を含むブログを見る 上記の書評が、「思想運動」No882 2011-12-1号に掲載されています。 現在、創造…

恋の罪(園子温)

作中、何度も引用される田村隆一の詩「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」が告げるように、誰しも言葉以前、意味以前の世界に戻れたらと夢想する。そこには、言葉という表層的な記号では捉えられない、何か深く確かなものがあるはずだと。 だが、もちろん、…

さすらいの女神(ディーバ)たち(マチュー・アマルリック)

映画の王道たる旅芸人のロードムービーといっても、そこはアマルリックなのだから、一筋縄でいくはずもない。「ニューバーレスク」。17世紀イギリス発祥のキャバレーショー「バーレスク」の進化形。 中年にさしかかった、お世辞にも美しいとはいえないダブ…

A Vital Sign ただちに犬(劇団どくんご)

外山恒一氏の告知にひかれ、噂の「劇団どくんご」の公演を見に行った。 大阪城公園内、「太陽の広場」の片隅に建てられたテント小屋。いかにも旅芸人の一座といった風情だ。振り返ればライトアップされた大阪城、見上げれば夜空に煌々と輝く月というシチュエ…

ゴーストライター(ロマン・ポランスキー)

ハートをもったゴーストライター。 その矛盾した存在を、終始弱り顔で眉間にしわの寄ったユアン・マクレガーが演じる。彼は、イギリス前首相のアダム・ラング(ジェームズ・ボンド俳優のピアース・ブロスナン)の自叙伝を、一ヶ月で仕上げろというオファーを…

ツリー・オブ・ライフ(テレンス・マリック)

かけがえのない身近ないのちを喪失した者が、それでも生きていかねばならないとき、いったいどうすればその欠落を埋められるのか。 寡作で知られるテレンス・マリックの新作は、次から次へと災厄に見舞われる今こそ人々に届け、とばかりに舞い降りてきたかの…

エッセンシャル・キリング(イエジー・スコリモフスキ)

足跡ひとつないまっさらなパウダースノーの上。あるいはたてがみまで色鮮やかな白馬の肌。その白にしたたり落ちる真っ赤な鮮血。結晶の形まで見てとれそうな氷まじりの雪原。雪解け水流れるせせらぎ。ピンク色に染まった夜明け前の広大な空。 自然の造形美と…

人魚伝説(池田敏春)

ストーリーはあえて省略する。そんなことをつらつら書いても、とても作品の強度に拮抗し得ないからだ。 原発推進派に夫を殺された海女の復讐劇。それだけ。白都真理が、白肌(オールヌードが話題になった)と白装束を血で真っ赤に染めながら、海に潜ってはま…

生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言(森崎東)

シネヌーヴォの特集「反原発×映画」で、『原子力戦争』(監督・黒木和雄、原作・田原総一朗)とたて続けに見たが、両方とも先日亡くなった原田芳雄が出ていて、何とも言えない気持ちになった。 修学旅行に参加不可となった不良中学生三人が、その腹いせに担…

自然災害の狡知―「災害ユートピア」をめぐって

映画芸術 2011年 08月号 [雑誌]出版社/メーカー: 編集プロダクション映芸発売日: 2011/07/30メディア: 雑誌 クリック: 23回この商品を含むブログ (3件) を見る 今号の「映画芸術」に、「自然災害の狡知―「災害ユートピア」をめぐって」という批評が掲載され…

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(マルコ・ベロッキオ)

「反体制右翼マガジン」と銘打たれた『デルクイ』創刊号で、外山恒一や三浦小太郎が、ムッソリーニの再評価を促している。外山がムッソリーニに傾倒したのは、自らの遍歴と重なったからだという。 ムソリーニ自身が、かなりアナキズムに近いマルクス主義者と…

政治経済学の政治哲学的復権(長原豊編)

政治経済学の政治哲学的復権 (比較経済研究所研究シリーズ)作者: 法政大学比較経済研究所,長原豊出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2011/04/20メディア: 単行本 クリック: 25回この商品を含むブログ (1件) を見る 今週号の「週刊読書人」に、上記の書…

引き裂かれた女(クロード・シャブロル)

シャブロルを見ると、いつもつい「いい気なもんだ」とつぶやきたくなってしまう。良くも悪しくも、典型的なフランスのブルジョアの姿が描かれているからだ。 見るからに若くてキュートで活発なガブリエル(リュディヴィーヌ・サニエ)が、なぜあんなにもあっ…

あぜ道のダンディ(石井裕也)

「宮田淳一、なお後方。まだ上がってこないか。最後の直線勝負か。宮田淳一、なお後方!」。 北関東とおぼしき地方都市のあぜ道を、自転車で行く中年男。自らを競走馬に見立て、自ら尻を叩いてムチを入れ、実況中継しながらひらすら自転車をこぐ光石研(宮田…

ブルー・バレンタイン(デレク・シアンフランス)

いつのまに二人はすれ違ってしまったのだろう。 一組の夫婦が離婚にいたる一日を、二人が出会い、恋に落ち、問題を乗り越え、結婚へとたどり着いていった過去のプロセスとともに同時並行的に映し出していく。そして、結婚式と別れのシーンがラストに同時にや…

八日目の蝉(成島出)

「八日目」という未来の時間は、いったい誰のものか。 良くも悪しくも「キレイだ」という印象だ。 この作品には、過去―現在―未来という垂直的な時間軸しか存在しない。横の水平的な人間関係や葛藤、いわゆる「他者性」は、きれいに除去されている。他者は未…

ブラック・スワン(ダーレン・アロノフスキー)

最近は肯定できない作品については沈黙していたのだが、この作品の反動性は、それなりにスゴイものがあったので、あえて触れておこうと思う。 断っておくが、バレエ映画としてはとても見られない。「おっ」と思わせるのは、冒頭、ナタリー・ポートマンが足指…

アンストッパブル(トニー・スコット)

ただひたすら、無人で暴走する機関車を止めるだけという、トニー・スコット作品の中でも抜きん出てシンプル、それゆえ最高の娯楽作品に仕上がっているこの作品について、付け加えるべきことは何もない。 ただ、浜岡原発停止問題を前にして、この実話に基づく…

シリアスマン(コーエン兄弟)

あなたを否認した時代に/ただひとつ 啓示の光がさしこむ。 あなたの虚無だけが/あなたから 時代が受けとることをゆるされた経験なのだ。(中略) おわりのない審級で/われわれがそうであるところのものがうつしだされる。 だれも全体のなかでの道を知らず…

ザ・ファイター(デヴィッド・O・ラッセル)

愛は惜しみなく奪う――。これは、隠れた傑作である。 もちろん、兄役のクリスチャン・ベールと母役のメリッサ・レオが、アカデミーとゴールデン・グローブの助演賞をW受賞しているのだから、「隠れた」も何もないが、テーマや画ではなく、丹念な人間ドラマと…

ファンタスティック Mr.FOX(ウェス・アンダーソン)

丘の上に立つ一本の木。その脇に立つパペットアニメの一匹のキツネが、やおらアキレス腱を伸ばし始める――。ファーストシーンで完全にやられた! 真実(現実)とフィクションという作家の一貫したテーマを、新たな趣向で展開したキアロスタミの『トスカーナの…

大地のうた(サタジット・レイ)

姉さんの後を裸足で追いかけていくと、いつしかすすきの中に迷い込んでしまった。 すすきの背が高すぎて、あたりは何も見えなくなる。とたんに怖くなったけど、やっぱり姉さんは少し先で待っていてくれた。「オプー、あれ」。指差した先には汽車が見えた。あ…

NN−891102(柴田剛)

長崎の原爆で被爆した主人公「零一」は、以後、そのときに体感した爆音にとりつかれて生きることになる。 作品のプログラムには、「ここには悲惨な「被爆者」の姿もなければ具体的な「戦争」という歴史がのしかかるわけでもない」とある。先日のトークでも(…

柴田剛監督の新作『堀川中立売』が、いよいよ3月中旬から関西にて公開されます。 「映画芸術」誌で昨年度ベスト2位に輝いた、大評判の新作関西公開を前に、柴田監督の過去作『NN-891102』(1999年)のDVD上映会&トークを行います。当日は監督に、新作のこ…

ゴダール・ソシアリスム(ジャン=リュック・ゴダール)

すでに昨年末に東京で見ていたのだが、今ひとつ何かを語る気が起こらなかった。やれ「音と映像がすごい」とか、「女性が美しい」とか、言わずもがなの当たり障りのないレビューやコメントや、作品を切り刻むかのごとく必要以上に精緻なそれがあふれ、あいか…

ヒア アフター(クリント・イーストウッド)

物語を形づくる一つの一つの素材はありふれているのに、それらのピースが組み合わさると、どうしてこんなにも新しく豊かになるのだろう。 泣ける要素は満載なのに、なぜこんなにも「お涙頂戴」とは異質の感動がもたらされるのだろう。 見事というほかはない…

柳美里1991―2010

【Amazon.co.jp 限定】柳美里1991-2010作者: 原仁司出版社/メーカー: 翰林書房発売日: 2019/01/01メディア: 単行本 クリック: 21回この商品を含むブログ (2件) を見る 上記論集に、「方舟と戦争――柳美里『命』四部作を読む」が掲載されています。

〇〇年代の可能世界

述 4号(2011 January―近畿大学国際人文科学研究所紀要 特集:文学10年代作者: 近畿大学国際人文科学研究所出版社/メーカー: 論創社発売日: 2011/02メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 241回この商品を含むブログ (3件) を見る 近畿大学国際人文科学研究所紀…