九月二日に、畏敬する武井昭夫さんが亡くなった。
私などは、そのブレない(「ブレない」という言葉は、武井さんのような方にこそふさわしいのではないか)活動家としての人生について云々する資格は持ち合わせていない。
ただただ一読者として、信頼できる言葉を失ったという思いでいっぱいだ。
いまどき、「社会主義の危機は人類の危機」とか、「フーコー、ドゥルーズ、デリダらフランス現代思想から、ネグリ/ハート『帝国』論にいたる思潮は、修正主義であり転向である」などとは、誰も言わなくなった。
だからこそ、武井さんの言葉は、現在なお一層批評的に響くものだった。
いつ読んでも、武井さんを思い出してしまう一節がある。
わたしたち、みんなその人のそばでくらしていた。だのに、わかっていなかったんだ。
義(ただ)しい人がいなくては村はたちいかないとたとえにもあるけど、あの人こそほんとにその義(ただ)しい人だったんだということが。
都もたちゆかぬ。
わたしたちの大地とてたちゆかぬ。
(ソルジェニーツィン『マトリョーナの家』)
とうとうお会いすることはできなかったが、会ったことのない私にまで、わざわざ直筆の栞入りで御本を送っていただいた。親しいかそうでないかという距離で他人を見ないこの実直さ(というのもおこがましいが)が、私がわずかに知る武井さんだった。
心より御冥福をお祈りいたします。
(中島一夫)