cinema

ジャッジ 裁かれる判事(デヴィッド・ドブキン)

「裁かれる判事」というより、むしろ裁かれる「弁護士」というべき作品だろう。作品として真新しさはないものの、弁護士「ハンク」を演じたロバート・ダウニーJrのひたすら鼻につく感じというか、鼻持ちならない感じがよかった。 いったい、彼はなぜ「裁か…

インターステラー(クリストファー・ノーラン)

ずいぶん前に見たのだが、ある懸念が的中してしまい、ずっと書く気が起こらなかった。だが、あまりにも本作の評価が高いので、やはりあまのじゃく的に書いておこう。 すでに前作『ダークナイトライジング』(2012)のバットマンが、街を救うべく、海上で爆弾…

0.5ミリ(安藤桃子)

冒頭、痰を吸引する管が映し出され、カメラは徐々に老人の口元へ、さらには傍らの家族らしき娘と介護するヘルパーへと移っていく。生々しいまでの介護の具体性を入口として、それを伝ってその奥に広がる家族関係、人間関係を映し出していこうとする本作のテ…

レッド・ファミリー(イ・ジュヒョン)

サラ・ポーリー『物語る私たち』が、家族とは物語であり演じられるものだということを露呈させる作品だったとしたら、はじめから演じられた家族が主役である本作は、疑似家族は本当の家族となり得るか、という話になるはずだ。もし、彼らが、北朝鮮から韓国…

物語る私たち(サラ・ポーリー)

子は親より先に生まれることはできない。 子にとって、だから「親子」とは、いつでも親の語る「物語」である。親子は、その「親子=物語」を演じ続ける共演者であり、やがてそれが物語であり演技であることを忘却していく共犯者なのだ。 だから、ひとたび親…

リアリティのダンス(アレハンドロ・ホドロフスキー)

この自伝的な新作のタイトルが明確に示しているように、ホドロフスキーにとって、歴史の真実は存在せず、したがって「リアリティ」は「ダンス」のように乱舞している。冒頭、舞い踊る貨幣のように。貨幣は、一か所にとどまっていては価値を生成しない。ダン…

グレート・ビューティー 追憶のローマ(パオロ・ソレンティーノ)

前作『きっとここが帰る場所』もそうだったが、この人のフィルムは、今まで見たことがない感覚に満ちている。イタリア、ローマの落日を、こんな風に描くやり方があったかという驚き。 狂騒的なパーティーの中に、初老でダンディなセレブ作家「ジェップ」(ト…

収容病棟(ワン・ビン)

ここは本当に病院なのか。 三階建ての中央がくり抜かれ、下には中庭がある。各階の回廊には鉄格子が張り巡らされている。回廊を歩き回ったり走り回ったり、ベンチに腰掛けて談笑しながら中庭をながめたりするのはまったくの自由だが、各階を行き来することは…

グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン) その2

この大地を切断する暴力に対抗するものは何か。 それが、グランド・ブダペスト・ホテルの伝説のコンシェルジュ「グスタヴ・H」による全身全霊のホスピタリティ(Hはその頭文字か)の精神と、「クロスト・キーズ協会」なる、グスタヴはじめ世界の一流ホテル…

グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン) その1

業界的にはすっかり「形式主義者」ということになってしまったウェス・アンダーソンだが、今作を覆っている不穏さはただ事ではない。 この作家とは思えないような血なまぐささと残虐さに満ちたショット、何より何かに急き立てられるような語りと画面のスピー…

サード・パーソン(ポール・ハギス)

タイトルとオープニングシーンで、目論見のすべてが見えてしまうので、ネタバレも何もあったものではないが、一点だけ。 奥泉光は「三人称リアリズムは気味が悪い」と言った。そこでは、語り手が現前しないので、虚構のリアリティを担保するものが不在だから…

アナと雪の女王(クリス・バック、ジェニファー・リー)

重い腰をあげて、ようやく見てきた。今さら何かを述べるまでもないのだが、一点だけ。 例の大ヒット主題歌「let it go」が、あの場面であのように使われているとは正直意外だったという点だ。それは、当然大団円のラストシーンでもかかるとばかり思っていた…

ディス/コネクト(ヘンリー=アレックス・ルビン)

冒頭、少年がアパートメントの各部屋を縫うように、宅配の段ボール箱を運び送り届けている。運び終わって自分の部屋に戻り、ノートPCを開ける。ネットを開けることで、分かたれたアパートの各部屋もつながってくるかのような感覚を覚える。作品のテーマを…

妥協せざる人々(和解せず)(ストローブ=ユイレ、1965年)

久しぶりにストローブとユイレの初期作品を見る機会を得た。すっかり忘れていたが、彼らの作品にしては、ずいぶん動きもドラマもあっていささか驚いた。記録映像の挿入(スクリーンプロセス)などもある。 原作は、ハインリヒ・ベル『九時半の玉突き』(1959…

ある過去の行方(アスガー・ファルハディ)

今、最も新作を心待ちにしている映像作家のひとりだ。そして、その期待をまったく裏切らない出来栄えである。ますます緻密になった脚本には、凄みすら覚える。 この監督の作品に「で、結局、どういうことだったの?」と問うてはならない。謎解きではないのだ…

コーヒーをめぐる冒険(ヤン・オーレ・ゲルスター)

朝、一日の始まりにコーヒーを飲みたくなり、あなたはカフェに入る。だが、あなたの注文したコーヒーだけが、なぜかやってこない。挨拶をしたのに、返してもらえなかったような気分だ。そのうち時間切れになり、あなたは小さな疎外感を抱きながら店を出る。 …

アデル、ブルーは熱い色(アブデラティフ・ケシシュ)

いかにも堅実な市民が暮らしていそうな、庭付きの白い色の家から、まだあどけなさの残る高校生の少女「アデル」が出てくる。「アデルの人生、第一章、第二章」の原題のとおり、このあと作品は、学生時代から教師になっていくまでのアデルの青春時代を、三時…

ねこにみかん(戸田彬弘)

この家には、「チチ」と呼ばれる父一人と、「ハハ」「カカ」「ママ」と呼ばれる母三人がいる。 そして、その父と三人の母の間には、それぞれ17歳になる子供が一人ずつおり、さらに彼らの誰とも血がつながっていない養子(28歳)が一人いる。 こう書けば…

北朝鮮強制収容所に生まれて(マルク・ヴィーゼ)

模範的な「囚人」同士を、最高の栄誉として結婚させる、いわゆる「表彰結婚」の両親から生まれたシン・ドンヒョク。彼は、生まれながらの政治犯として、外の世界を知らないまま育った。そこでは夫婦になるといっても、共に生活することなど許されない。だか…

愛の渦(三浦大輔)

最寄駅からケータイで誘導されても、容易にたどり着けない迷宮のごときマンションの一室。そこでは、夜な夜な乱交パーティーが繰り広げられている。 今宵も男女4人ずつ計8人が集ったが、彼らはカップルや夫婦の集まりではない。つまり、これはスワップでは…

ダラス・バイヤーズクラブ(ジャン=マルク・ヴァレ)

暴れ牛に8秒間、跨がれ! ロデオショーに出演するカウボーイの「ロン・ウッドルーフ」(マシュー・マコノヒー)は、HIV陽性で余命30日を宣告される。だが、ロンはその死の宣告に抗って、生を宣戦布告していく不屈の男なのだ。 それまで酒と麻薬、賭博、…

ほとりの朔子(深田晃司)

前作『歓待』も、家に転がりこんでくる闖入者によって、家全体に化学反応が起こっていく話だった。今回も監督は、「朔子」(二階堂ふみ)を親元から引き離し、夏の終わり、海と山のほとりにある主人のいない家に置いてみたのだ。そして前作同様、今作の朔子…

スノーピアサー(ポン・ジュノ)

いったい、列車に等級制があったのはいつ頃だろうか。 日本では、1872年の鉄道開業時には、客車は上等、中等、下等の三等級に区分されていた。それが、1897年に一等、二等、三等に変わる。「下等」の名称が、乗客の感情を害するためだったという。また、誤乗…

エレニの帰郷(テオ・アンゲロプロス)

すべての死者と生者に、過去と現在に、誰もに等しくあまねく雪が降る。無音で静謐なエンドロールがあたり一帯を包み込む。「これが遺作だ」という事実を、観客は静かにかみしめる。 「二十世紀三部作」の第二篇だった今作のあとに、いったいアンゲロプロスは…

大理石の男(アンジェイ・ワイダ) その2

このストから「連帯」結成までが、続く『鉄の男』の主題であり、そこではアグニェシカが、グダンスク造船所で出会ったビルトークの息子「マチェック」(言うまでもなく、『灰とダイヤモンド』の主人公と同じ名)と結婚、しかも彼はストライキの指導者という…

大理石の男(アンジェイ・ワイダ) その1

「ポーランド映画祭2013」が大阪で開催されたので、この機会に改めて、ワイダの『地下水道』(1957年)、『灰とダイヤモンド』(1958年)、『大理石の男』(1976年)、『鉄の男』(1981年)をまとめて見た。 四作はそれぞれ、第二次大戦下のワルシャワ蜂起、…

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(ジム・ジャームッシュ)

かつての輝きはないかもしれない。物語も単調だろう。 だが、そのクールな映像と音楽は、一度この世界のソファーに、アダム(トム・ヒドルストン)とイブ(ティルダ・スウィントン)のように身を沈めてしまうと、いつまでも浸っていたくなる。 『創世記』の…

鑑定士と顔のない依頼人(ジュゼッペ・トルナトーレ)

旧作『ニュー・シネマ・パラダイス』の記憶からか、はたまた本作のミステリー仕立ての巧みな構成が話題を呼んでか、客席は満席。途中で展開や結末は予想できるものの、それでも最後まで引きつけて見せてしまう手腕はさすがだ。 カリスマ的なベテラン美術競売…

フィルス(ジョン・S・ベアード)

『バッド・ルーテナント』を思い出させる、ヤク中のイカれた刑事。 作品は、決して警察の腐敗というおなじみの刑事物語を奏でたいわけではない。捜査のシーンがほとんどないことからも、それは明らかだろう。あくまで作品は、主人公の刑事「ブルース・ロバー…

恋の渦(大根仁)

柳原可奈子のショップ店員の物真似に出て来そうな、若者たちのしぐさや口調。 「あるある」「いるいる」というリアリティがウケているのだろう。映画館は笑いの「渦」だった。ポツドール三浦大輔の原作戯曲を、『モテキ』の大根仁が映画化。「動物化」する若…