2013-01-01から1年間の記事一覧

田山花袋『蒲団』について その2

その1のような事実があったとしても、『蒲団』は、同時代的には、「此の一篇は肉の人、赤裸々の人間の大胆なる懺悔録」として、「美醜矯める所なき描写が、一歩を進めて専ら醜を描くに傾いた自然派の一面は、遺憾なく此の篇に代表させられてゐる」と見なさ…

田山花袋『蒲団』について

学会や研究者にとってはもはや常識なのだろうが、花袋『蒲団』の、例の蒲団の匂いを嗅ぐ場面が、赤裸々な「告白」どころか、ゾラの模倣とは知らなかった。 柏木隆雄「ゾラ、紅葉、荷風」(『ゾラの可能性――表象・科学・身体』所収、2005年)は、「花袋を告白…

参院選原発ツイートについて

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130708-00000079-mai-pol原発ツイートがトップだからといって、「ツイート数自体が「世論」を映し出しているものではない」とか、「ツイッター上の話題からネット上の「世論」を探るという考え方自体が間違っているのか…

欲望のバージニア(ジョン・ヒルコート)

1931年、禁酒法時代のバージニア州。 上から、ハワード(ジェイソン・クラーク)、フォレスト(トム・ハーディ)、ジャック(シャイア・ラブーフ)のボンデュラント三兄弟は、密造酒を製造、販売していた。むろん非合法だが、すでに冒頭から地元警察も公認、…

2011危うく夢見た一年(スラヴォイ・ジジェク)その2

いったい、エジプトはどうなっていくのか。性急な希望から、安易な失望に論調、展望は変わりつつあるようだが。 すでに述べたが、われわれは、過去数十年、リベラルな形態(南アフリカからフィリピンに到るまで)であれ、原理主義的な形態(イラン)であれ、…

オブリビオン(ジョセフ・コシンスキー)

2077年の地球は、60年前の地震や津波、また宇宙人(スカヴ)の侵略に対する核攻撃によって、もはや人類自体が住めなくなっている。生き残った人類は土星へ移住、ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)は、いまだ続くスカヴの侵略を警戒しながら、無人となっ…

詩と、人間の同意(稲川方人)

詩と、人間の同意作者: 稲川方人出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2013/05メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 次号の「映画芸術」に書評を書いたので、ここではごく簡単にとどめるが、とにかく久々に信頼できる言葉を読んだ。最後の二編などは、とて…

2011 危うく夢見た一年(スラヴォイ・ジジェク)

2011 危うく夢見た一年作者: スラヴォイ・ジジェク,長原豊出版社/メーカー: 航思社発売日: 2013/05/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る ウォール街占拠運動は、したがって、(混乱をもたらすことがしばしばある)さまざまなその言明の氾濫…

イノセント・ガーデン(パク・チャヌク)

この監督の作品は、過剰で辟易とさせられるところもあるが、今作は極めてソフィスティケートされている。何しろハリウッド進出作だ。 頭脳明晰にして美しく、人並みすぐれて研ぎ澄まされた五感をもつ少女「インディア」(ミア・ワシコウスカ)は、18歳の誕生…

三姉妹〜雲南の子(ワン・ビン)

「その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物も殆ど変っていやしない」。坂口安吾の小説「白痴」の書き出しだ。 大空襲の中、どてっ腹に爆弾の衝撃を感じながら、だが「僕はね、ともかく芸人だから」「逃げたいが、逃…

新宿ダンボール村 迫川尚子写真集1996―1998

新宿ダンボール村 迫川尚子写真集 1996-1998作者: 迫川尚子出版社/メーカー: DU BOOKS発売日: 2013/04/01メディア: 単行本この商品を含むブログを見る この写真家の第一作『日計り』は衝撃だった。 そこに映し出された新宿の街は、1990年代のそれには見えな…

田村孟 全小説集

以前、「週刊読書人」に掲載された書評が、『航思社』HPに転載されています。http://www.koshisha.co.jp/

三姉妹〜雲南の子(ワン・ビン)

ワン・ビン待望の新作『三姉妹〜雲南の子』のレビューが、『映画芸術』のHPに掲載されています。 相澤虎之助さん、津村喬さんとのクロスレビューです。 http://eigageijutsu.com/article/361773955.html 後日、こちらにも本文UPします。

リンカーン(スティーブン・スピルバーグ)

このすこぶる評判の悪い新作で、スピルバーグは、いったい何を撮ろうとしたのだろうか。 戦闘シーンはオープニングだけ、戦場が映るのも、馬上のリンカーンが死体の山の中を練り歩く黒澤明ばりのシーンのみで、明らかに南北戦争をテーマとする戦争映画ではな…

コズモポリス(デイヴィッド・クローネンバーグ)

クローネンバーグの新作の評価が異様に低いので(一時、「Yahoo」では1点台だった)、心配しながら見に行ったが、どうしてどうして、これが面白かった。 すでに指摘があるように、白のリムジンを「舞台」としているのは、奇しくもレオス・カラックスの13…

オデット(ジョアン・ペドロ・ロドリゲス)

ポルトガルの新星ロドリゲスが、ついに関西上陸、満を持して見に行った。 一見、オデットは、訳のわからない奇行を繰り返す、危ない女性にしか見えない。だが、彼女は、「呼ばれ、感じ、同化する」ことにおいて、むしろ作品を通して一貫しているのだ。 例え…

適切な距離(大江崇允)

人間はオイディプス、予言的動物である。先行する言葉に、どうしようもなく引きずられ、身も心も振り回される。それが神託ならぬ、肉親の日記であればなおさらだろう(もともと、今作の原作は戯曲だったという)。たとえ、そこに嘘がまじっていても。いや、…

ザ・マスター(ポール・トーマス・アンダーソン)

勢いよく上方へと流れる水流が、画面いっぱいに映し出される。水兵の「フレディ」(ホアキン・フェニックス)の視線は、キョロキョロと定まらない。本作のテーマはこの冒頭のシーンに尽きている。 監督は言う。「人は何かマスターという存在なしに生きられる…

愛、アムール(ミヒャエル・ハネケ)

夫婦は、ともに老ける。だが、都合よく同時に老けるわけではない。残酷にも、どちらかが早く衰える。子供がいても、別々に暮らしていれば老老介護になるだろう。それからの人生は、途方もなく長く感じられるのかもしれない。「かくも長き人生…」。 人間の負…

千年の愉楽(若松孝二)

昨年10月17日の突然の事故死を受けて、この監督の神話化、あるいは安易な神話化に抗うとする「神話化」が、映画界を中心になされている。 遺作となったこの美し過ぎる作品は、自らの先行きを予見していたかのように、まさに生と死というひたすら繰り返される…

「述6」 3・11後から見た戦後思想

述〈6〉3・11後から見た戦後思想 (近畿大学国際人文科学研究所紀要)作者: 近畿大学国際人文科学研究所,近畿大国際人文科学研究所=出版社/メーカー: 論創社発売日: 2013/03メディア: 単行本 クリック: 30回この商品を含むブログ (1件) を見る 近畿大学国際人…

ジャンゴ 繋がれざる者(クェンティン・タランティーノ)

前作『イングロリアス・バスターズ』の冒頭から露わになっていた、タランティーノのマカロニ・ウェスタンへのオマージュは、本作で全開となった。 『続・荒野の用心棒』や『黒いジャガー』との関連は、至る所で触れられているので措く。まずもって、CGを使…

ゼロ・ダーク・サーティ(キャスリン・ビグロー)

今回のアカデミー賞作品賞は、『アルゴ』(ベン・アフレック)が獲得した。 先日の『アルゴ』の記事にも書いたが、この作品には、現在のイスラム原理主義の猛威につながる、イラン・イスラム革命を何とか否認したい、そのためには歴史の偽造も辞さないし、C…

希望の原理(ブロッホ)

希望の原理 第一巻 (白水iクラシックス)作者: エルンストブロッホ,山下肇,瀬戸鞏吉,片岡啓治,沼崎雅行,石丸昭二,保坂一夫出版社/メーカー: 白水社発売日: 2012/11/07メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 4回この商品を含むブログ (1件) を見る 上記…

青い凧(ティエン・チュアンチュアン)

『無言歌』、『鳳鳴』で整風運動=反右派闘争を描いたワン・ビンが、同じテーマを扱った先達として、真っ先に挙げた作品だ。見かけほど素朴なだけの作品ではない。 ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)は、チェン・カイコーやチャン・イーモウらと同じ、文…

アルゴ(ベン・アフレック)

イランのアメリカ大使館の外に、人々が大挙押し寄せる。当初、大使館員らは、窓の外の光景を見やりつつ、「やけに今日は騒がしいな」といぶかしがる程度だったが、一人二人と門を乗り越え、大使館内に侵入してくるとにわかに事態が激変する。あっという間に…

『日本小説技術史』をめぐって

日本小説技術史作者: 渡部直己出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2012/09/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 52回この商品を含むブログ (9件) を見る 文芸批評家の渡部直己さんが、新作をひっさげて、近畿大学に凱旋されます。 国際人文科学研究所・シン…

合衆国最後の日(ロバート・オルドリッチ)

ベトナム戦争とウォーターゲート事件に揺れるアメリカ(公開は1977年)。確かに、合衆国がはじめて「最後の日」を意識した時期かもしれない(原作はウェイジャーの小説『合衆国最後の日』)。2時間26分、緊張が途切れることがない。思わず身を乗り出し、…