2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

物語と悪――王殺し「後」の中上健次 その6

見てきたように、中上は、「父」になろうとする者がいない日本近代文学が、いったい何を「抑圧」し「排除」してきたのかを明らかにすべく、「物語の系譜」へと向かった。「父」になろうとする者がいないのは、「父」がやがて自壊に追い込まれていくほど劣化…

物語と悪――王殺し「後」の中上健次 その5

「性、生殖、それが人を拝跪させる」のは、性と生殖こそが、親―子の垂直的な「ズレ」を不可避的に生じさせるからだ。そして親―子の「ズレ」が名づけを招き寄せることで、差別—被差別の「ズレ」をもあらしめるのである。だから、差別とは、この「ズレ」に「ロ…

物語と悪――王殺し「後」の中上健次 その4

述べてきたように、近代の啓蒙的理性からすれば、「王殺し」は不可避的で「自然」の出来事であり、言うなればむしろ「善」ではないのか。にもかかわらず、それを「悪」にしたてあげていき、デッチあげていくのが「物語」という「法・制度」である。「大逆」…