2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン) その2

この大地を切断する暴力に対抗するものは何か。 それが、グランド・ブダペスト・ホテルの伝説のコンシェルジュ「グスタヴ・H」による全身全霊のホスピタリティ(Hはその頭文字か)の精神と、「クロスト・キーズ協会」なる、グスタヴはじめ世界の一流ホテル…

グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン) その1

業界的にはすっかり「形式主義者」ということになってしまったウェス・アンダーソンだが、今作を覆っている不穏さはただ事ではない。 この作家とは思えないような血なまぐささと残虐さに満ちたショット、何より何かに急き立てられるような語りと画面のスピー…

サード・パーソン(ポール・ハギス)

タイトルとオープニングシーンで、目論見のすべてが見えてしまうので、ネタバレも何もあったものではないが、一点だけ。 奥泉光は「三人称リアリズムは気味が悪い」と言った。そこでは、語り手が現前しないので、虚構のリアリティを担保するものが不在だから…

日本に近代市民社会は成立しているか

「週刊読書人」7月4日号「論潮」に、上記今月の論壇時評が掲載されています。 訂正:「たったひとりきりの〈一者〉」→「たったひとつきりの〈一者〉」 若干、内容の補説をしておきたい。 今回、柄谷行人の『探究Ⅱ』において、「市民社会」は「交通空間」へ…